研究課題
EGFR活性型遺伝子変異を有する非小細胞肺癌(NSCLC)に対するGefitinib (EGFR-TKI)の効果は既知のものであるが、その一部は自然耐性を示し、治療の大きな障壁となっている。一方、癌の微小環境、特に低酸素環境は癌幹細胞性の維持やEMT誘導と密接な関連があり、治療抵抗性に寄与していると考えられる。我々は現在までに、Gefitinibに高感受性・NSCLC細胞株であるPC9を用いたIn vitro細胞培養系において、Gefitinib治療後に残存し抵抗性を示すDrug-tolerant persisters (DTPs)は、肺癌幹細胞マーカーCD133や山中因子であるOct4, Sox2などを高発現し、マウスへの高い腫瘍生着率を示す極めて幹細胞性の高い細胞集団であること、また低酸素環境は著明なEMTを誘導し、Gefitinib耐性DTPsの比率を顕著に上昇させることを見出した。そしてEMT誘導因子の中で、転写因子であるZEB1発現が著明に上昇しており、ZEB1遺伝子のknockdownはGefitinib曝露後のDTPsの比率と幹細胞性を有意に低下させ、低酸素誘導性Gefitinib耐性もReverseすることを確認した。本研究において、我々はNSCLC のGefitinib耐性機序を幹細胞Nicheと考えられる低酸素環境とCD133陽性DTPsやZEB1、またZEB1を直接標的遺伝子とするmiR-200cなどのmicroRNAsの解析を通して詳細に検証する。
2: おおむね順調に進展している
現在までに我々は、Gefitinib感受性PC9細胞が低酸素環境においてGefitinib耐性を示し、CD133陽性DTPsの比率が著明に上昇することを確認した。CD133陽性DTPs はCell cycle解析でほぼG1期に静止しており、またマウスにおいて非常に少ない細胞数で腫瘍生着を示し、自己複製能を反映するSphere forming abilityも亢進していた。また低酸素環境は、著明なEMTを引き起こし、EMT誘導因子の中でもZEB1発現が上昇することも見出した。幹細胞様集団の生成とEMTには密接な関連があり、ZEB1遺伝子のknockdownはGefitinib曝露後のDTPsにおける幹細胞性因子の発現やSphere forming abilityを著明に低下させ、DTPsの比率を抑制することで低酸素誘導性Gefitinib耐性もReverseすることを確認した。
現在までの我々の検討結果は、EGFR-TKI耐性における幹細胞性やEMTの関与を積極的に示唆するものと考える。しかしEGFR-TKI治療耐性に直接関与しているCD133陽性の幹細胞集団とEMTやmicroRNAsとの相互関連、および幹細胞のNicheと考えられている低酸素環境との関連を網羅的に検討した報告はいまだない。実際のNSCLC患者でのEGFR-TKI治療耐性という生物学的現象は、これらが癌微小環境で互いに複合的に関与しあっている病態と考えられ、多角的に治療戦略を構築する必要性がある。
消耗品等に係る経費を学内研究費より捻出できたため、当初予定していなかった余剰金が発生した。動物実験(マウス等)の実験を遂行するに当たり、その諸経費に充当する。
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PLoS One
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Respir Investig
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