研究課題/領域番号 |
24591186
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 静岡県立静岡がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
山本 信之 静岡県立静岡がんセンター(研究所), その他部局等, 研究員 (60298966)
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研究分担者 |
洪 泰浩 静岡県立静岡がんセンター(研究所), その他部局等, 研究員 (80426519)
芹澤 昌邦 静岡県立静岡がんセンター(研究所), その他部局等, 研究員 (00569915)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 分子標的治療 |
研究概要 |
がん関連死における原因として、肺がんを含む胸部悪性腫瘍は極めて高い割合を占めている。治療成績の向上のためには、新規薬剤の開発とともに、個々の患者の分子生物学的プロファイルを明らかにし、その情報に基づき最適な治療を行う「個別化医療」の実現が不可欠である。 本研究においては、本邦における「胸部悪性腫瘍における個別化医療」の推進を目的に、第一段階として、がんの分子生物学的解析を実現するためのバイオバンク体制の確立に取り組んだ。具体的には診療科横断的な協力体制に基づき、同意取得から個人情報匿名化、検体採取、検体保存、遺伝子変異測定、検査結果提供までの流れを確立した。 次に、バイオバンクにて保存された検体の測定において、パイロシークエンサーを用いたがん関連遺伝子変異測定系を確立し、日本人胸部悪性腫瘍患者における分子生物学的プロファイルを明らかにした。具体的には、がん関連遺伝子変異として臨床的に重要なものを含めた遺伝子変異パネルを作製し、本年度において、採取した腫瘍組織を用いてのがん関連遺伝子変異の測定を約600症例において実施し、肺がんを中心とした日本人胸部悪性腫瘍患者におけるがん関連遺伝子変異の頻度を明らかにした。従来の報告と同様にEGFR、KRAS等の遺伝子変異が優位に検出されると同時に、複数の症例において2種類以上の遺伝子変異が検出されることも明らかになった。そして個人情報管理室を介して、その遺伝子変異情報を臨床現場に検査結果として提供することを実現した。 また、従来法より大幅なスループットの向上とより網羅的高感度変異検出系の構築を目指し、次世代シーケンサーを用いた検出系の確立に取り組みを開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 病院診療部門(呼吸器内科、呼吸器外科、病理診断科、画像診断科)と研究所測定部門(新規薬剤開発・評価研究部)の協力体制に基づく、胸部悪性腫瘍全症例の臨床検体を、体系的に収集・保管できるバイオバンクの確立を行った。また、個人情報については、独立した管理部門(個人情報管理室)による管理システムを整備した。本年度末までで、新鮮凍結手術検体が約300サンプル、ホルマリン固定検体を含めると約1000サンプルのバイオバンクを確立することに成功した。 2. 腫瘍組織特異的な遺伝子異常の検出においては、がん関連遺伝子変異として臨床的に重要なものを含めた遺伝子変異パネルを作成し、ほぼすべての症例からの検体において遺伝子変異測定を実施することを実現した。そして個人情報管理室を介して、その遺伝子変異情報を臨床現場に検査結果として提供することを実現した。 3. 腫瘍関連遺伝子変異をより網羅的に検出するシステムとして、次世代シーケンサーを用いた網羅的高感度変異検出系の構築を行った。具体的にはがん関連48遺伝子における体細胞変異を検出するパネルを用いて、従来法よりもハイスループットで、より高い検出感度を実現するシステムを確立した。 4. キナーゼアレイシステムを含む探索的研究手法による統合解析については、来年度以降に取り組む予定である。本研究には新鮮凍結組織から抽出したタンパク質が必要であるが、既に、新鮮凍結手術検体が腫瘍組織と正常組織がペアで約300症例分あり状況であり、来年度以降に取り掛かることができる状態である。
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今後の研究の推進方策 |
分子標的治療の標的となり得る腫瘍組織特異的な遺伝子異常の検出において、次世代シーケンサーを用いた網羅的高感度変異検出法のメリットは大きく、来年度以降は次世代シーケンサーを利用しての遺伝子変異検出法を中心とした研究開発をさらに進める。次世代シーケンサーを利用しての遺伝子変異検出においては、ホルマリン固定サンプルを用いての遺伝子変異検出の確立ということに非常に大きな意義がある。新鮮凍結サンプルを用いての遺伝子変異検出についてはほぼ確立しているが、ホルマリン固定サンプルを用いての遺伝子変異検出については、技術的には可能であるとの報告はあるが、得られたデータの質が臨床で利用できるレベルにあるかどうかの実証は必ずしもなされていない。実地臨床において扱うサンプルの多くはホルマリン固定サンプルであり、これを解決することは非常に大きな意義があり、来年度以降は本課題を中心に研究に取り組む予定である。 キナーゼアレイシステムを含む探索的研究手法による統合解析に取り掛かる。バイオバンクに保管されている腫瘍組織と正常組織がペアの新鮮凍結手術検体を用いて、がん組織中のチロシンキナーゼおよびセリン・スレオニンキナーゼの内因活性を測定し、がん組織特異的に活性化しているキナーゼ分子およびシグナル伝達経路の同定および解析を開始する。特に、次世代シーケンサーを用いた網羅的高感度変異検出法にて既知の腫瘍関連遺伝子変異が検出されなかった検体を優先して測定を実施することで新規の標的分子の同定を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該助成金が生じた理由として、次世代シーケンサーを利用しての遺伝子変異検出系の確立において、予想を超えてハイスループット化を実現できたことにより、シークエンシング自体に必要な試薬購入量を抑えることができたことが挙げられる。次年度においては、より網羅的な遺伝子変異検出を可能とするパネルの作製に研究費を使用するとともに、シークエンシングでは検出が現時点では困難な融合遺伝子等の検出系の確立に研究費を使用する予定である。
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