研究課題/領域番号 |
24591186
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
山本 信之 和歌山県立医科大学, 医学部, 教授 (60298966)
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研究分担者 |
洪 泰浩 静岡県立静岡がんセンター(研究所), その他部局等, その他 (80426519)
芹澤 昌邦 静岡県立静岡がんセンター(研究所), その他部局等, その他 (00569915)
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キーワード | 分子標的治療 / 遺伝子変異 / 肺癌 |
研究概要 |
昨年度までに確立したパイロシークエンサーを用いた遺伝子変異測定系にて、肺がんを中心とする胸部悪性腫瘍患者から採取した組織を用いて、がん関連遺伝子における変異の測定を実施した。測定項目としてはEGFR、KRAS、BRAF、PIK3CA、NRAS、MEK1、AKT1、PTEN,およびHER2の9遺伝子における23か所の変異に加えて、EGFR、MET、PIK3CA、FGFR1およびFGFR2における遺伝子増幅について検討を行った。 411例の肺腺がんにおける検討では、411例中の223例(54.3%)において上記の遺伝子において変異もしくは増幅を認めた。最も頻度が高く検出されたのはEGFR変異であり (35.0%)、その他にKRAS変異(8.5%)およびALK 遺伝子融合(5.0%)等が頻度高く検出された。また22例(5.4%)において、同時に2つ以上の遺伝子変異が観察された。日本人の肺腺がん症例におけるこれまでで最大規模の報告であり、非常に重要なデータとなると考える。 また、60例の小細胞肺がんにおいても同様な項目について変異検出を行った。小細胞肺がん症例においては、9例(15例)においてがん関連遺伝子における変異を認めた。内訳は、EGFR 変異(n=1, G719A)、KRAS変異 (n=1, G12D)、PIK3CA 変異 (n=3, E542K, E545K, E545Q)、AKT1変異 (n=1, E17K)、MET増幅 (n=1)およびPIK3CA増幅 (n=6).であった。肺腺がんと比較すると遺伝子変異検出率は大幅に低く、従来のドライバー遺伝子変異とされるものはごく一部の症例においてのみ認めただけであり、いわゆるホットスポット変異解析では十分でないことが示唆される結果であった。PIK3CA増幅が6例において検出され、小細胞肺がんにおける治療標的となり得る可能性が示唆された。 上記結果について多くの国内外の学会にて発表を行うとともに論文としての発表を行った。加えて、より網羅的な遺伝子変異検出に向けての取り組みとして、次世代シークエンサーを用いての変異検出系の確立を行い、臨床検体を用いての検討を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. バイオバンクが確立され、病院診療部門(呼吸器内科、呼吸器外科、病理診断科、画像診断科)と研究所測定部門(新規薬剤開発・評価研究部)の協力体制に基づく、胸部悪性腫瘍全症例の臨床検体を、体系的に収集・保管できる状態である。本年度末までで、新鮮凍結手術検体が約500サンプル、ホルマリン固定検体を含めると約1400サンプルの取得を行った。 2. 腫瘍組織特異的な遺伝子異常の検出においては、パイロシークエンス法にて、がん関連遺伝子変異として臨床的に重要なものを含めた遺伝子変異パネルを作成し、多くの症例において変異測定を行うことを実現した。肺腺がんおよび小細胞肺がんにおいては論文として発表することができた。加えて、その遺伝子変異情報を臨床現場に検査結果として提供することを実現した。 3. 腫瘍関連遺伝子変異をより網羅的に検出するシステムとして、次世代シーケンサーを用いた網羅的高感度変異検出系の構築を昨年度に行い、今年度は本格的に臨床検体を用いての測定を開始した。約300症例において測定を実施し、ASCO(米国がん治療学会)を含めた国内外で学会発表を行った。今後は臨床情報との解析を行い、論文としての発表を予定している。 4. キナーゼアレイシステムを含む探索的研究手法による統合解析については、肺がん培養細胞株を用いた基礎的検討を行い、その後に小細胞肺がんにおいて測定を開始した。腫瘍組織由来のタンパク質と正常組織由来のタンパク質を用いての測定を行っており、シスプラチン、エトポシドに加えて、探索的にdasatinib処理によるチロシンキナーゼ活性への影響を検討する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
ここ数年における腫瘍組織特異的な遺伝子異常の検出においての、次世代シーケンサーを用いた網羅的高感度変異検出法の進歩は著しく、より実地臨床での利用を目指した研究開発が進められている。その中で、実地臨床における診断目的での利用を実現するために最も重要な克服すべき課題は、ホルマリン固定サンプルを用いての次世代シーケンサーを利用した遺伝子変異検出である。実地臨床において扱うサンプルの多くはホルマリン固定サンプルであり、これを解決することは非常に大きな意義がある。本年度はホルマリン固定手術サンプルを用いての基礎検討を行い、遺伝子変異検出が可能であることを示唆する結果を得た。この手法の微小FFPEサンプルにおける評価を来年度以降取り組む予定である。特に多くの場合非常に微小である内視鏡下での採取サンプルを用いての遺伝子変異検出を中心に研究に取り組む予定である。これを実現するために、抽出したDNAの増幅を行うことや、ドロップレットシステムを用いてのPCR反応等を技術的な解決策として検討および実施する予定である。 キナーゼアレイシステムを含む探索的研究手法による統合解析については。今年度にバイオバンクに保管されている腫瘍組織と正常組織がペアの新鮮凍結手術検体を用いたがん組織中のチロシンキナーゼの内因活性の測定を開始した。今後はデータ解析を進め、がん組織特異的に活性化しているキナーゼ分子およびシグナル伝達経路の同定および解析を開始する。遺伝子変異データとの統合解析を行うことで新規の標的分子の同定を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該助成金が生じた理由として、シークエンス用のライブラリー作成や測定において必要となる試薬等の使用量を最適化することや用いる試薬の検討より、より低いコストでの測定を実現できたことが挙げられる。 次年度においては今年度から引き続き、網羅的な遺伝子変異検出を可能とするパネルの作製およびそれを用いた測定に研究費を使用するとともに、微小サンプルおよびFFPEサンプルを用いてのシークエンシングの確立に研究費を使用する予定である。
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