研究課題
重症の血管炎に続発する腎障害の原因として糸球体上皮細胞(ポドサイト)と内皮細胞のクロストークの破綻が関与していると考え、その原因としてplasminogen activator inhibitor-1(PAI-1)が介在物質として重要という仮説を立てた。血管炎腎炎の際に、糸球体濾過膜を挟んだポドサイトと内皮細胞の直接的もしくはエンドクリン/パラクリン的なPAI-1を介した相互作用の破綻を検証するために、ER4G抗体の静脈内投与によって惹起された血栓性微小血管炎(TMA)モデル動物を用いた。腎炎群には新たにインシリコ技術で合成されたリード化合物である新規PAI-1阻害薬(TM5275)と抗血栓作用のあるクロピドグレルと対比させ、病理学的評価と取り出した腎組織のmRNAにおいてTMAに関連する各種サイトカイン発現状況をクラスター解析した。PAI-1阻害薬を投与しておくとTMA腎炎モデルの糸球体病変が改善し、ポドサイトの保護効果が確認できた。特に血栓性血小板減少性紫斑病に認められるような内皮細胞障害型TMA様病変は軽減した。一方、クロピドグレルは血小板凝集抑制効果を認めても血管炎所見は増悪し、単なる凝固線溶系の改善が腎炎改善効果と結びつかなかった。また、同時に行ったmRNAのクラスター解析では、PAI-1阻害薬のIL-6やMCP-1発現も抑制することが分かった。そこで、PAI-1阻害薬の抗炎症作用を明らかにするために、マウス腹膜炎モデルを用いた腹腔内への炎症性マクロファージの浸潤の抑制効果も検討した。炎症物質に対するマクロファージの浸潤はある程度TM5275によって抑制することができ、この効果がlow-density lipoprotein receptor–related protein (LRP)を通じた可能性を見出した。以上のことから、新規PAI-1阻害薬は重症な血管炎型腎炎に有効な薬物治療の第一候補であり、現在、本化合物のGLP製剤の作成が進んでおり、この結果を受けて臨床第一相試験に向けて研究を進めている。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
J Am Soc Nephrol.
巻: 24(10) ページ: 1559-1616
10.1681/ASN.2013010030