研究課題
基盤研究(C)
本研究はこれまで研究の遅れてきた細胞であるボウマン嚢上皮細胞に対して、そのシグナル伝達経路を中心に解析し、糸球体障害との関連を解明することを目的とした研究である。我々はボウマン嚢上皮細胞にsestrin 2というmTOR経路を抑制する蛋白が強く発現することを見いだしたことより、本研究に着手した。免疫組織染色では成人ラットの腎臓において、PGP9.5(既存のボウマン嚢上皮細胞マーカー)と同様のパターンで、ボウマン嚢上皮細胞に特異的にsestrin 2の強い発現がみられた。胎児腎(E20.5)においては後腎間葉細胞やcomma-shaped bodyに軽度発現し、capillary-loop stage以降の糸球体ではボウマン嚢上皮細胞に強くsestrin 2が発現した。巣状糸球体硬化症によるネフローゼ症候群のモデルであるアドリアマシン腎症で検討したところ、高度蛋白尿に伴いボウマン嚢上皮細胞のsestrin 2の発現は減弱、消失し、一方、mTOR下流のP-S6RPの発現が上昇し、ボウマン嚢周囲に強い線維化がみられた。微小変化型ネフローゼ症候群のモデルであるピューロマイシン腎症でも高度蛋白尿の出現時に、一過性にボウマン嚢周囲の線維化と、ボウマン嚢上皮細胞のsestrin 2発現の減弱、P-S6RPの発現上昇がみられたが、蛋白尿の改善に伴いsestrin 2の発現も回復し、線維化も改善した。以上よりボウマン嚢上皮細胞の恒常性の維持にsestrin 2の発現は重要であり、その減弱はmTORの活性化、糸球体周囲の線維化に関連する可能性があることが示された。
2: おおむね順調に進展している
ラット腎臓に関する研究を進め、ボウマン嚢上皮細胞におけるsestrin 2とmTOR経路の関連について、明らかにすることができた。
ボウマン嚢上皮細胞におけるsestrin2-mTOR経路の役割を解明するために、不死化マウス培養ボウマン嚢上皮細胞を使用した検討を進めていく。血清除去、過酸化水素、高血糖、PDGF、TGF-βなどによる刺激を行ったり、shRNAによるsestrin 2の発現減弱やmTOR阻害薬であるrapamycinを使用したりして、sestrin2-mTOR経路とボウマン嚢上皮細胞の機能や障害機序との関連について検討を進めていく。また引き続き、動物モデルを用いて検討を行う。
該当なし
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