研究課題
ボウマン嚢上皮細胞はこれまで腎糸球体構成細胞の中で見過ごされがちな細胞であったが、近年、ボウマン嚢のバリア機能の保持や、腎幹細胞、前駆細胞の可能性が示されるなど注目されている。Sestrin 2は最近発見された蛋白であり、低酸素や酸化ストレスで誘導され、mTOR経路を抑制することが他の細胞では報告されている。我々は健常ラットボウマン嚢上皮細胞にsestrin 2が強く発現することを発見し、今回の研究課題を遂行した。ラット腎炎モデルを用いて糸球体障害時のsestrin 2の発現について検討したところ、ネフローゼ症候群モデルであるアドリアマイシン腎症とピューロマイシン腎症では、ともに蛋白尿の発現時期に一致して、ボウマン嚢上皮細胞でのsestrin 2の発現が減弱し、mTOR下流のリン酸化S6RP発現の増加がみられるとともに、その部位において糸球体周囲の線維化がみられた。半月体形成性腎炎モデルでは、半月体を形成するボウマン嚢上皮細胞の増殖部位で、sestrin 2の発現の減弱がみられた。マウス不死化培養ボウマン嚢上皮細胞を用いた検討では、shRNAを用いてsestrin 2の発現を減弱させると、mTOR経路下流のS6RP、4E-BP1、p70S6K のリン酸化が増強し、これらの変化はsestrin 2の標的であるAMPKの活性化剤であるAICARの投与で抑制された。さらにsestrin 2の発現の減弱により、ボウマン嚢上皮細胞のapoptosisの増加が観察された。以上よりsestrin 2がボウマン嚢上皮細胞の新たな障害マーカーになりうることを示した。またsestrin 2の下流に存在するmTOR経路が、sestrin 2の発現と連動してボウマン嚢上皮細胞障害時にダイナミックに変化することを明らかとなり、本経路が糸球体障害の治療ターゲットとなる可能性が示された。
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American Journal of Physiology Renal Physiology
巻: 307 ページ: F708-F717
10.1152/ajprenal.00625.2013.