研究課題
基盤研究(C)
ヒトES細胞(embryonic stem cell; 胚性幹細胞)やiPS細胞(induced pluripotent stem cell; 人工多能性幹細胞)から試験管内で腎細胞を選択的に分化誘導する方法は確立されていない。しかし、申請者らは既にヒトiPS細胞から腎臓構成細胞のほぼすべてを派生させる胎生組織「中間中胚葉」を高効率に分化誘導する方法を確立している。本研究の目的は、常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD) や常染色体劣性多発性嚢胞腎(ARPKD)など腎集合管に病変を生じる疾患に対する新規疾患モデルを作製するために「ヒトiPS細胞由来中間中胚葉」から胎生腎組織「尿管芽」を経て「集合管細胞」を分化誘導する方法を開発することである。上記の目的のうち、H24年度は、ヒトiPS細胞由来中間中胚葉から尿管芽マーカー遺伝子陽性細胞を分化誘導する方法の確立と尿管芽マーカー遺伝子SALL4のレポーターヒトiPS細胞株の樹立を計画した。そして、当研究室が有する約50種類の増殖因子と作用が既知の化合物の組み合わせ処理を検討し、ヒトiPS細胞由来の中間中胚葉から20-30%程度の効率にてSALL4陽性細胞を分化誘導する方法を開発した。また、申請者らが開発したBAC(細菌人工染色体)をターゲッティングベクターに用いる独自の方法にてヒトiPS細胞に相同組み換えを起こす方法を用いて、尿管芽マーカーSALL4のレポーターヒトiPS細胞株を樹立した。
2: おおむね順調に進展している
H24年度には、ヒトiPS細胞由来中間中胚葉から尿管芽マーカー遺伝子陽性細胞を分化誘導する方法の確立と尿管芽マーカー遺伝子SALL4のレポーターヒトiPS細胞株の樹立を計画した。低分子化合物のスクリーニングを行わなくとも、約50種類の増殖因子と作用が既知の化合物の組み合わせの検討にて、20-30%の効率であるがSALL4陽性の尿管芽細胞の誘導法を開発した。また、レポーター発現の詳細な確認や核型解析などによるチェックは完了していないが、SALL4-tdTomatoノックインヒトiPS細胞株を樹立しており、概ねH24年度の目的は達成されたと考える。
レポーターヒトiPS細胞株とフローサイトメトリーを用いて、ヒトiPS細胞より分化誘導されたSALL4陽性細胞を生存したまま単離する。そして、マイクロアレイによる詳細な遺伝子発現解析を行い、マウス胎児尿管芽の遺伝子発現と比較検討する。尿管芽に発現することが知られている既知の遺伝子は比較的少ないため、本解析にて新規の尿管芽マーカー候補遺伝子が同定された場合、マウス胎児腎臓の尿管芽での発現を免疫染色あるいはin situ hybridization法にて確認し、新規の尿管芽マーカー遺伝子のリストを作成する。また、ヒトiPS細胞から誘導されたSALL4陽性細胞を単離し、試験管内でさらに分化させることや免疫不全マウス腎被膜下などへの移植後にin vivoの環境で分化させることにより、集合管や腎盂、尿管、膀胱など尿管芽由来器官のマーカー発現細胞に分化するか否かを検証する。併せて、SALL4陽性細胞をマウス胎児腎臓の後腎間葉と共培養し、間葉を糸球体上皮、近位および遠位尿細管、ヘンレのループからなるネフロン構造に分化誘導させる尿管芽としての発生生物学的機能を有するか否かを検証する。以上の検証により、ヒトiPS細胞から作製された尿管芽マーカー陽性細胞が、生体内の尿管芽と同様の遺伝子発現および発生生物学的機能を有するか否かの綿密な検証を行う。また、ヒトiPS細胞由来の尿管芽細胞から腎集合管細胞への分化誘導剤を探索するスクリーニングシステムを構築する。
該当なし
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