研究課題
シスチン尿症(OMIM220100)は、腎近位尿細管のシスチン再吸収不全により生じる常染色体劣性の遺伝性疾患であり、rBAT(補助サブユニット)とb(0,+)AT(活性サブユニット)の二つのタンパク質からなるヘテロ二量体型シスチン輸送体の変異により発症するが、さらに未知のトランスポーターの関与が示唆されてきた。本研究は、b(0,+)ATと同じファミリーに属するトランスポーターSLC7A13が、長年不明であったrBATの第二の結合パートナーであり、尿細管シスチン再吸収に寄与するものであることを実証して、シスチン尿症の新規原因遺伝子候補を提示することを目的とした。平成25年度は、前年度に確立した精製タンパク質を用いたプロテオリポソーム再構成法を用いて、SLC7A13の基質選択性を輸送活性阻害試験によって解析した。さらに、SLC7A13の基質選択性とその輸送メカニズム解析とプロテオミクス解析の結果から、SLC7A13の生理的機能を明らかにする目的で、機能共役する他のアミノ酸トランスポーターを予測、同定を試みた。その結果、SLC7A13の基質の一部をナトリウム依存的に細胞内に取り込むアミノ酸トランスポーターとSLC7A13が尿細管S3分節において共局在していること、さらに2種のトランスポーターが近接して存在していることを明らかにした。これにより、S3分節においてSLC7A13が効率的にシスチン再吸収を行うメカニズムの一端が明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
前年度に引き続き、精製タンパク質を用いたプロテオリポソーム再構成法を用いることで、SLC7A13の詳細な輸送機能解析を行った。22種類のアミノ酸を用いた取り込み試験に加え、10種類のアミノ酸誘導体を用いた阻害実験を行うことにより、SLC7A13の基質認識についての情報が得られた。さらに、SLC7A13がナトリウム依存的グルタミン酸トランスポーターEAAC1/SLC1A1と近位尿細管S3分節において近接して共局在していることを示したことにより、アミノ酸輸送におけるアミノ酸トランスポーター同士の機能共役によりシスチンの再吸収が行われていることが強く示唆される結果を得た。これは、尿細管物質輸送生理学にシスチン輸送の新しい分子を加えただけでなく、別々の輸送体が機能的複合体を形成し機能共役することで、輸送機能を発揮しているという概念を実証する結果であると考える。この機能的複合体は、多数の輸送体タンパク質と足場タンパク質からなる超複合体の一部である可能性を示唆する予備的結果が得られている。
グルタミン酸トランスポーターEAAC1/SLC1A1との機能共役が示唆されたことから、機能的複合体の存在が考えられ、さらに物理的な超膜複合体を形成している可能性が示唆される。実際、予備的な検討からSLC7A13及びrBATが、グルタミン酸トランスポーターEAAC1/SLC1A1とは異なる他のトランスポーターと複合体を形成している結果が得られている。したがって、その複合体の実在を明らかにし、尿細管における物質の再吸収機能が、個々のトランスポーターの機能だけではなく、それらの機能共役を必要としていることを明らかにする。再構成系による機能解析に加え、超複合体の共免疫沈降実験、プロテオミクス解析を用いることで機能的もしくは物理的複合体の実態を明らかにし、さらにその複合体におけるSLC7A13の役割を解明する。また、既に予備的検討で検出されている超複合体の中に見られるトランスポーターは、トランスポーター単独で培養細胞で発現させた際には機能を発現しない、もしくは弱い機能を示す因子が含まれていた。SLC7A13もまた、同様にrBAT との共発現だけでは培養細胞で十分な発現及び活性を示さない。このことは、近位尿細管のトランスポーターの機能発現に広く必要な新規因子の存在を示唆しており、尿細管物質輸送生理学における重要な発見となる可能性がある。この新規因子についても、プロテオミクス解析によって実体解明を進める。
研究の進展により、当初予定していた動物を用いる実験よりもプロテオミクス解析や再構成実験を行ったため、動物施設使用料として計上していた一部が次年度使用額となった。次年度においてもプロテオミクス解析や再構成実験を多く行う計画である。生じた次年度使用額高価なプロテオミクス試薬や質量分析計消耗品、界面活性剤の購入に使用する予定である。
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