研究課題
昨年度、慢性腎不全モデルに合成セリンプロテアーゼ阻害薬であるcamostat mesilate(CM)を投与し、セリンプロテアーゼが線維化の促進を介して腎不全を進行させている可能性を示した。セリンプロテアーゼの腎線維化における役割を詳細に検討するために、尿細管間質の線維化モデルである慢性片側尿管結紮(UUO)ラットを用いてCMの効果を検討したところ、CM投与群では優位に腎線維化が改善した。その機序としては、CMはマクロファージ浸潤やTGF-β産生ではなく、線維芽細胞におけるTGF-β受容体活性化あるいはそれ以降のシグナリングを抑制することにより腎線維化を抑制していた。驚くべきことに、このCMの腎線維化抑制作用は、UUO作成後7日目にCM投与を開始した群、すなわちある程度腎線維化が進行した群においても効果を示し、CMが実臨床においても腎不全に対する新しいクラスの薬剤となる可能性が示された(Am J Physiol F173-181, 2013)。また、我々は、セリンプロテアーゼの一つであるプロスタシンが肝臓に多く発現していることに着目し、肝臓におけるプロスタシンの生理的役割を検討した。肥満により肝プロスタシンの発現は低下する。肝臓特異的にプロスタシン遺伝子を欠損させたマウスは糖尿病を発症したが、その機序として、プロスタシンはリポ多糖(LPS)の受容体であるToll様受容体4(TLR4)を切断することにより肝臓に過度な炎症が生じることを抑制する生理的役割を持っており、プロスタシン欠損により肝臓に炎症が生じてインスリン抵抗性が低下し、糖尿病発症につながることが分かった。肝プロスタシンの発現低下が、肥満における糖尿病発症において重要な役割を果たしていることが解明されたという点において、臨床的にも非常に重要な発見となった(Nat Commun, 2014)。
2: おおむね順調に進展している
慢性腎不全モデルにおいて、合成セリンプロテアーゼ阻害薬であるcamostat mesilate(CM)を用い、セリンプロテアーゼが腎障害を促進するメカニズムを検討し、上皮細胞の障害にセリンプロテアーゼが関与していること、また炎症性サイトカインの産生や線維化にも関与していること、そして腎障害時の酸化ストレス産生にも関与していることを示した。また、尿細管間質の線維化モデルである慢性片側尿管結紮(UUO)ラットを用い、CMは、マクロファージ浸潤やTGF-β産生ではなく、線維芽細胞におけるTGF-β受容体活性化あるいはそれ以降のシグナリングを抑制することにより腎線維化を抑制することを明らかにした。さらに、UUO作成後7日目にCM投与を開始する群でもこのCMによる腎線維化抑制作用を確認し、CMが実臨床において、ある程度腎障害が進行した例に対しても有効な薬剤となる可能性が示した。また、肝臓での役割が全く不明であったプロスタシンが、リポ多糖(LPS)の受容体であるToll様受容体4(TLR4)を切断することにより肝臓に過度な炎症が生じることを抑制する生理的役割を持っていることを明らかにし、肥満による糖尿病において、肝プロスタシンの発現低下が重要な役割を果たしていることを示した。これは非常に重要な発見であり、研究はおおむね順調に進行していると言える。
現在行っている種々培養細胞を用いたin vitroでのプロテアーゼが酸化ストレスを誘導するメカニズムについて、プロテアーゼ阻害薬のみならず、SiRNAによる個別蛋白のノックダウンなどの方法を利用して検討をさらに進める。また、in vivo SiRNAシステムを用いて、各種動物モデルにおけるin vivoでの個別のセリンプロテアーゼノックダウンの影響を検討し、またプロスタシン過剰発現マウスおよびプロスタシン臓器特異的ノックアウトマウス、プラスミノーゲンノックアウトマウスなどのプロテアーゼ関連遺伝子組み換えマウスなどにおける腎障害進展機序について検討する。さらに、プロテアーゼ阻害薬と抗酸化薬併用投与や、既存の腎保護薬であるアンギオテンシン変換酵素阻害薬であるACE-Iやアンギオテンシン2受容体阻害薬などとの併用による組織障害への効果の検討およびその効果的投与方法などについても検討し、実際の臨床応用につなげていく。
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Nat Commun
巻: Epub ahead of print ページ: on line
10.1038/ncomms4428
Mod Rheumatol
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10.3109/14397595.2013.852844
Clin Exp Nephrol
Am J Physiol Renal Physiol
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