研究課題/領域番号 |
24591210
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
長谷川 一宏 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (30424162)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 腎臓学 / SIRT1 |
研究概要 |
抗加齢医学、エピジェネティックな遺伝制御を応用し慢性腎臓病の新規治療を開発する事を目標とし、抗加齢遺伝子SIRT1の機能解析を通じ、SIRT1の糖尿病性腎症(DN)におけエピジェネティック制御を介する足細胞保護作用を明らかにしDNの新規治療標的として、確立させるべく研究を進めている。DN発症においては近位尿細管SIRT1発現が低下しその変化が糸球体足細胞に波及し細胞接着因子Claudin-1発現をエピジェネチィックに上昇させ、アルブミン尿が生じることを明らかにしている。 今回Claudin-1Tgの解析を進め、in vivoにおけるポドサイトClaudin-1の重要性を検討している。現在までにポドサイト特異的Nephrin promoter下流にClaudin-1 cDNAを組み込み構築後、培養ポドサイト(Shankland教授より供与)にTransfectし、western blotでClaudin-1の蛋白発現の亢進した事より、ポドサイト特異的Claudin-1発現ベクターのConstructの有効性を確認した。当ベクターを用い、ポドサイト特異的Tgマウスを作製し、脱分化、糖尿病性腎症増悪の有無を検討している。 解析は、生後8週よりStreptozotocin(STZ)を投与し、DNを発症させ、24週後の蛋白尿(蓄尿ケージ)とアルブミン尿(スポット尿でAlb/Crの比を測定)を測定している。合わせて、Claudin-1免疫染色、PAS、電子顕微鏡によるポドサイトの形態変化を検討している。Claudin-1TGでは、ポドサイトのClaudin-1発現が亢進することにより、ポドサイト足突起の癒合を増悪させ、アルブミン尿が増悪した。来年度以降、その詳細な機序について検討を行なう予定である。 以上の結果は、平成24年度のアメリカ腎臓学会および日本腎臓学会にて口演発表し、報告した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の想定通り、TGマウスでアルブミン尿が増悪したことにより、当初の予定通りの達成度と評価している。これまでの実験で、SIRT1によるClaudin-1の発現調節としては、近位尿細管SIRT1が液性因子を介し、ポドサイトClaudin-1の CpGメチル化を来すepigenetic な調節メカニズムが重要である事を新たにに明らかにした。本研究では、Claudin-1の発現低下のみ(Claudin-1 CKO)でSIRT1高発現によるポドサイト保護が説明できる事、一方でClaudin-1の発現亢進のみ(Claudin-1 Tg)でSIRT1低下によるポドサイト機能の低下が説明できる結果を得る事が期待される。以上より、Tight junction構成分子Claudi-1の低下が糖尿病性腎症のポドサイト脱分化の改善を可能にするかを検討する今回の研究は、既存のポドサイトに関する研究とは一線を画す、独創的なアプローチであり、DNの新規の治療に繋がる成果を目指し来年度以降も検討を進めていく。 また、糖尿病性腎症(Diabetic Nephropathy, DN)の検討では、Sirt1、Claudin-1抗体によるヒト検体における免疫染色のプロトコールを確立し、施行した。染色陽性部位をImage-Pro Plus で定量し、臨床学的パラメータ(eGFR,S-Cr,HbA1c,蛋白尿等)との相関を統計学的に解析した。その結果、尿細管Sirt1低下とポドサイトClaudin-1上昇、ポドサイトClaudin-1上昇と一日蛋白尿量が相関したため、ヒトでもClaudin-1の重要性が示唆される結果を得ており、当初の予定通りの達成度に至っている。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの検討から、分化した培養ポドサイトにClaudin-1をtransfectし過剰発現したところ、ポドサイトの分化マーカーであるSynaptopodin(分化マーカーとしての有効性を示す既報:Edelstein M, Diabetes. 2011)の発現低下とアルブミン透過性亢進を認めた。このin vitroの結果が、in vivoにおいても同様に認められるか、すなわちClaudin-1上昇が、生体のポドサイトの脱分化と蛋白尿を生じるかについて検討することで、治療標的としての有効性を確立したい。 我々は、独自のレーザーマイクロダイセクション(LSM)を確立した。既存のLSMは、Cresyl Violet染色標本のみ、検体採取が可能であった(Cohen CD, Kidney Int. 2002)。しかし、Cresyl Violetは、糸球体や尿細管の細部構造が保たれず、糸球体と糸球体外の分画が限界であった。一方、PAS染色にLSMを施行すると、プレパラートから腎組織が剥離する弱点があったが、我々はpoly-L-lysineを標本にcoatingし、剥離を防ぐ方法の確立に成功した。 この方法により、近位尿細管やボーマン嚢上皮という個別の細胞毎に採取が可能となった。本研究では、Claudin-1 TGのポドサイトを直接採取し、ポドサイト脱分化の亢進(TG)を分化マーカー(Synaptopodin)の発現で判定し、又、その他の分子の挙動も検討してメカニズムを解析する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
Claudin-1上昇が、生体のポドサイトの脱分化と蛋白尿を生じるかについて検討することで、治療標的としての有効性を確立したい。、このため、Claudin-1 TGマウスのポドサイト採取に用いるマイクロダイセクションのブロック作成、PAS染色、Coating素材、採取液といった試薬に研究費を使用する。採取後の細胞については、Claudin-1 CpGメチル化の検討としてBisulfite PCR, Bisulfite sequenceによるメチル化解析、ヒストンのメチル化、アセチル化の評価としてChIP解析を行なう予定であり、研究費により試薬を購入する。脱分化のマーカーの一つであるSynaptopodinの発現評価としてリアルタイムPCRや免疫染色での評価を行なう。 ヒト糖尿病性腎症の腎生検のClaudin-1染色に使用する固定液、ブロック作成、抗体等の試薬に研究費を使用する。 又、以上の成果を例年口演発表している日本腎臓学会、米国腎臓学会にて発表する。
|