研究課題
NAD依存性脱アセチル化酵素Sirt1(サーチュイン)は、カロリー制限で発現が上昇し、長寿や臓器保護に重要な役割を果たす。我々は、腎臓では近位尿細管Sirt1が重要であり、In Vitroの系で細胞保護作用を報告し(BBRC 2008)、続いて生体意義を解明する為、近位尿細管特異的Sirt1過剰発現マウス(Transgenic:Tg)(JBC 2010)・欠損マウス(Condtional Knockout; CKO)を作製した。更に、我々は、高血圧・腎炎・糖尿病等の病態の異なる腎障害をマウスに惹起し、Sirt1変化が最も顕著であった糖尿病性腎症に着目した。Sirt1は、通常は近位尿細管と足細胞(ポドサイト、糸球体の構成細胞)の双方に発現するが、糖尿病では、まず近位尿細管Sirt1が低下し、その結果Sirt1由来のニコチン酸代謝産物のNicotinamaide Mono Nucleitide(NMN)の分泌が減少した。NMNの減少で足細胞Sirt1も低下し、Epigenetic制御で本来足細胞に発現していないtight junctionの構成分子のClaudin1の発現が上昇し、足細胞の癒合を引き起こし、蛋白尿が出現する事を報告した(Nat Med 2013)。この研究で、尿細管から糸球体への尿流と逆行する情報伝達経路(尿細管・糸球体連関と名付けた)を発見した。更に“細胞間連関のメディエーター”として「炎症関連分子」がこれまで注目されてきたが、細胞内ニコチン酸代謝の変化に基づく「細胞代謝産物」(当研究ではNMN)をメディエーターとして同定した。更に、Epigenetic制御による糸球体バリア機能の変化を示し、腎細胞へのストレス刺激の反復(当研究では高糖負荷)により、エピジェネテイックスの変化で障害が固着する「病変の不可逆性」を解明した。
2: おおむね順調に進展している
Sirt1は近位尿細管、足細胞に発現しているが、糖尿病では、高血糖によりまず近位尿細管のSirt1発現が低下し、その結果、Sirt1由来のニコチン酸代謝産物(nicotinamaide mononucleitide;NMN)の分泌が減少する。NMNの減少により足細胞のSirt1発現が低下し、epigenetic 制御によりtight junction蛋白Claudin1の発現が上昇し、β-catenin経路活性化によりPodocin, Synaptopodinなどスリット膜やβアクチン細胞骨格の構成蛋白発現低下を来し、足細胞のeffacementを引き起こして糸球体バリア機能が障害されアルブミン尿が出現することを明らかにできたため
今後は、ヒト検体における意義をさらに確立したい。第一に、糖尿病性腎症と腎内NMN濃度の低下や尿中NMN濃度の低下について検討し、NMNの病勢マーカーとしての意義を確立したい。臓器内、組織内濃度に加え、NMN濃度の測定については、既に細胞レベルでも、MediumやCytoplasm共にHPLCによる測定系を確立している。この系を利用し、ヒト尿検体における尿中NMN濃度の低下と糖尿病進行度(腎生検による組織評価)の相関についての解析を行う。第二に、糖尿病性腎症と尿中Claudin-1の上昇について検討し、Claudin-1の病勢マーカーとしての意義を確立したい。更に、Claudin-1のポドサイト特異的ノックアウトマウスを作成中であり、当マウスが糖尿病性腎症のポドサイト脱分化(高糖負荷によるClaudin-1の上昇が、過剰なtight junctionの増加を引き起こし、分化の過程でtight junction優位なポドサイトからスリット膜蛋白優位な機能ポドサイトに分化するプロセスとは逆行し、tight junction優位な状況に至るため、機能が低下することが想定される現象)やClaudin-1によるβ-catenin, snail高発現によるアルブミン透過性亢進を抑制するか否かについても、STZ投与モデル(1型糖尿病モデル)やdb/dbモデル(2型糖尿モデル:db/mとの交配を重ねて、作成する)の双方について検討を行いたい。
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Nature Medicine
巻: Nov;19(11) ページ: 1496-504.
10.1038/nm.3363