研究課題
基盤研究(C)
糸球体足細胞スリット膜は濾過の重要な装置である。これまでに、申請者らを含め多くの研究者により、その分子構築が明らかにされてきたが、スリット膜構成分子の集合体形成と再生機構については未だ不明である。本研究では、1)スリット膜分子が足細胞成熟段階でどのように集合体を作るか、2)成熟した足細胞において、濾過をしながらスリット膜がどのようにして再生されるかを明らかにし、3)in vitro培養細胞系を用いてスリット膜を形成する系を構築し、上記の2つの問題について詳細に検討することを目的とする。当年度は以下のような研究成果を得た。1)ポドサイト特異的MAGI-1ノックアウトマウスの解析:以前、スリット膜分子nephrinとタイト結合蛋白MAGI-1が直接結合し、スリット膜形成に関わることを報告しているが、MAGI-1の役割を詳細に解析するために、米国のKaufman博士と共同でポドサイト特異的MAGI-1ノックアウトマウスの解析を進めている。ノックアウトマウスではスリット膜の主要な分子であるpodocinとnephrinのシグナルが顕著に減少しており、その原因として合成された分子がスリット膜へ運ばれず、細胞内で消化されていることを示唆する結果を得た。この結果は日本解剖学会総会にて報告した。2)MyosinIIAの解析:ポドサイトの突起形成は濾過システムの形成に重要である。この突起形成にmyosinIIAが重要な役割を担っていることを培養足細胞を用いて示した。この結果は米国細胞生物学会にて報告し、現在論文作成中である。3)Myosin1eの解析:Myosin1eは未熟な足細胞においてタイト結合ZO-1と結合し、タイト結合の移動とスリット膜形成に関わる重要な分子であることが分かった。この研究は米国のKrendel博士との共同研究として論文投稿中である。
2: おおむね順調に進展している
本年度はスリット膜の形成過程についての研究を中心に行うことを目的として活動を開始した。未熟な足細胞においてはスリット膜が形成される過程で、タイト結合が頂部から細胞底部へ移動してスリット膜へ移行することが知られている。このタイト結合の移動はスリット膜が形成されるために必須であるが、それに関わる分子は不明であった。当年度、タイト結合の移動に関わる分子としてモーター蛋白であるmyosin 1eを見いだしたことが大きな成果である。この分子は代表者が以前報告したスリット膜とタイト結合両方に局在する分子ZO-1と直接結合することも代表者らの研究で判明したことから、タイト結合からスリット膜への移行にも重要な役割を担っている可能性がある。また、スリット膜形成の前段階として足突起形成が必要であるが、この足突起形成にmyosin IIAが関わることが判明したことも重要な成果と言える。さらに、機能が不明であったスリット膜分子MAGI-1の働きについてもスリット膜分子ネフリンの膜への移行に関わることが明らかとなったことは本課題の今後の進展に大きく寄与するものと考えられる。培養細胞を用いたin vitro濾過システムの構築については、培養細胞の培養条件の設定に時間を要し、予定より若干遅れていたが、必要な機器の準備も整い、次年度から解析を進めて行くことが可能となった。
本年度はスリット膜の形成過程に関わる重要な分子群を新たに見いだすことができた。この成果を基に、in vivoでのスリット膜形成に関わる分子群の機能的意義について、さらに詳細な研究を進めて行く必要がある。また、足突起形成とスリット膜の形成はin vivoにおいてリンクしている。代表者らは足細胞培養株を用いて、再現性の良い足突起形成を示す培養条件を確立した。この培養細胞でin vivo同様な足突起形成を再現し、そこからスリット膜分子の発現と膜への局在のステップを解析することが可能となった。当年度に見いだしたMAGI-1とmyosin 1eはスリット膜分子の細胞膜への移行と細胞間接着部位への局在に関与することが我々の研究から推定できることから、これらの分子の挙動を手がかりとしながら、スリット膜分子の集合体形成のメカニズムを詳細に検討することとする。また、塩酸プロタミン(PS)を用いたin situ灌流システムを用いて、スリット膜分子の再生機構について解析を進める予定である。
該当なし
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