研究課題/領域番号 |
24591214
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
栗原 秀剛 順天堂大学, 医学部, 准教授 (80311976)
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研究分担者 |
市村 浩一郎 順天堂大学, 医学部, 准教授 (10343485)
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キーワード | 腎臓学 / 足細胞 / 糸球体濾過 / 細胞接着 / ネフローゼ |
研究概要 |
糸球体足細胞スリット膜は濾過の重要な装置である。これまでに、代表者らを含め多くの研究者により、その分子構築が明らかにされてきたが、スリット膜構成分子の集合体形成と再生機構については未だ不明である。本研究では、1)スリット膜分子が足細胞成熟段階でどのように集合体を作るか、2)成熟した足細胞において、濾過をしながらスリット膜がどのようにして再生されるかを明らかにし、3)in vitro培養細胞系を用いてスリット膜を形成する系を構築し、上記の2つの問題について詳細に検討することを目的とする。当年度は以下のような研究成果を得た。1)Myosin1eの解析:Myosin1eは足細胞においてタイト結合ZO-1と結合し、タイト結合の移動とスリット膜形成に関わる重要な分子であることを米国のKrendel博士との共同研究で明らかにし、Am J Physiolに論文を掲載した。その後の研究で、この分子がネフローゼ発症に伴う足突起間のタイト結合形成にZO-1とともに関わることが示唆された。2)MyosinIIAの解析:ポドサイトの形態形成に関わる重要な分子としてmyosinIIAの機能解析を行っている。この分子が細胞の突起形成に伴う中間径線維の再分布に重要な役割を演じていることがノックダウン実験により分かった。本年度は、myosinIIAとビメンチンを結び付ける分子としていくつかの候補分子の存在も明らかにした。3)横浜市大の大野研究室と共同で以前報告したスリット膜関分子aPKCがスリット膜のturnoverに重要な役割を演じており、特に合成されたネフリン分子の細胞膜への移行に関わることをaPKCノックアウトマウスによる解析で明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に引き続き、足細胞間に形成されるスリット膜の形成と再生に関わる重要な分子群の解析を行っている。本年度は、スリット膜関連分子として以前に報告した(PLoS ONE 2009) aPKC-PAR3複合体のスリット膜形成における役割についてさらに検討を進め、この分子がスリット膜のturnoverに関わっており、特にスリット膜分子ネフリンが膜に移行するexocytosisのステップに重要であることを初めて明らかにすることができた。この業績は当該研究課題を遂行する上で、極めて大きな成果となった。昨年度報告したMAGI-1ノックアウトマウスの解析から、MAGI-1もネフリンの膜移行に関わることが分かっており、スリット膜の主要な要素であるネフリンに直接結合し、スリット膜の形成と安定化に関わる分子群の全容が、これらの研究から明らかになりつつある。また、この研究においてスリット膜分子の代謝回転が極めて速いことも分かり、今後スリット膜分子の再生過程を調べる重要な基礎となると考えられる。さらに、スリット膜分子とネフローゼの際に形成されるタイト結合との関わりについては、スリット膜分子のうちこれまでに明らかにしてきたZO-1,podocinおよびNeph-1に加えてZO-1に結合するmyosin1eを二つの構造の形成に共通に関わる新たな分子として加えることができたこともスリット膜研究の大きな進展である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度はスリット膜の形成と再生に関わる重要な分子としてaPKCの関わりを明らかにすることができた。このaPKC分子はネフリン分子と直接結合することが分かっており、ネフリンの代謝回転を中心に解析を進めたが、それ以外のスリット膜分子との関わりについては以前不明な点が多い。スリット膜分子は、糸球体形成過程では別々なルートから膜へ移動し、最終的にスリット膜として集合体を形成することをin vivoの系で見いだしている。aPKCや昨年度報告したMAGI-1が発生過程および濾過が行われるようになった成熟期において、いかなる分子と会合して膜へ輸送されるか、また膜へ移行した蛋白がどのようにして処理されるかという問題について来年度も研究を継続する。古くなったスリット膜がいかにして処理されるかもスリット膜再生における重要な問題である。ラットネフリン分子の細胞外ドメインを認識するモノクローナル抗体である5-1-6を動物に投与し、抗体が結合したネフリンがどのようにして処理されるかを調べることで、古くなったスリット膜分子の処理過程を調べることが可能となる。このモデル系においてaPKCやMAGI-1の関わりを調べることは有意義なアプローチではないかと考えており、来年度の大きな課題のひとつとして研究を行うこととする。
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