研究課題/領域番号 |
24591222
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構(千葉東病院臨床研究センター) |
研究代表者 |
今澤 俊之 独立行政法人国立病院機構(千葉東病院臨床研究センター), その他部局等, 研究員 (80348276)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 低出生体重 / 巣状分節状糸球体硬化症 / 糸球体上皮細胞 / ミトコンドリア |
研究概要 |
本研究課題「低出生体重個体における腎症発症機序の解明:特にミトコンドリアの関与について」に関して、以下のように順調に研究は進んでいる。 a.低出生体重関連腎症モデルラットの確立:低出生体重個体および対照群としての正常出生体重個体を必要数得て、更に両群への片側腎臓摘出および高塩食負荷にて、低出生体重群にのみ巣状分節状糸球体硬化病変(FSGS)を形成することを確認した。ヒトにおいても低出生体重個体において同FSGSを呈し、モデルラットの確立に成功したといえる。 b.マクロ及びミクロ組織学的解析・分子生物学的解析による低出生体重関連腎症の病態把握:上記で得られた腎組織に関し初年度の予定通り光学顕微鏡・電子顕微鏡解析のための処理・染色等を滞りなく終了させた。また4週齢で摘出した両群の腎を用い網羅的な蛋白発現解析も行い、いくつかのミトコンドリア関連蛋白において両群間に差を認めている。これは当初の予定より早く進んでいる。 c.ミトコンドリア遺伝子・機能・形態解析:電子顕微鏡にて低出生体重群の糸球体上皮細胞にのみ腫大ミトコンドリアの集積を認めたため、糸球体上皮細胞に焦点をあてた。細胞実験の結果、糸球体上皮細胞が分化とともに巧みにそのエネルギー代謝(ミトコンドリアOXPHOS等)を変化させると伴に、ミトコンドリアネットワークを形成していることも判明した。 今後は4週齢の腎を用いた網羅的な蛋白質発現解析をさらに進め、低出生体重群では正常出生体重群に比しミトコンドリア機能にいかなる差異があるのか、そしてそれが腎障害といかに関係しているのかを検討していく。エネルギー代謝に関する網羅的な遺伝子発現解析も実施する。また当初の2年次の予定通り、サンプリングした組織や尿に関しての解析も更に進める。siRNAを用いてミトコンドリア機能に関するどのような因子が上皮細胞の機能・形態維持には必要なのかも解明していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度の最初の目標であった、「ヒト低出生体重関連腎症類似病変を有する低出生体重動物(ラット)モデルの確立」に関しては、ラット妊娠15日と16日に、dexamethazoneを0.2mg/kgで腹腔内投与することで、低出生体重群、正常出生体重群について目標数の各々7匹の低体重出生のラットを得ることができた。さらにこれらの両群について4週齢となった時点で片側腎臓摘出を行い、更に高塩食により飼育を行い8週齢でsacrificeし、組織解析した結果、低出生体重群ではFSGS病変を生じ、正常出生体重群ではFSGS病変を認めないことが分かった。これらの電子顕微鏡的解析により、低出生体重群の糸球体上皮細胞において腫大したミトコンドリアが集積していることを認めた。すでに初年度に目標としたサンプリングは終了しており、目標は達成できた。また4週齢で採取した腎臓を用いて、網羅的蛋白発現解析を開始しており、4週時点(両群で病理学的差異は認めない)におけるいかなる差異が、病変に繋がったかの考察を開始した。いくつかのミトコンドリア関連蛋白について差異を検出しており、更に詳細な解析を進めている。ターゲットを糸球体上皮細胞におけるミトコンドリア機能に絞り、糸球体上皮細胞のエネルギー代謝に関しての検討を開始した。その過程で、糸球体上皮細胞の培養系を用いてその成熟過程における各段階において網羅的な蛋白発現解析を行った結果、糸球体上皮細胞が分化とともに巧みにそのエネルギー代謝(ミトコンドリアにおけるOXPHOS等)を変化させているとともに、ミトコンドリアのネットワーク(fusion and fissionを通じて)を形成している様子も捉えた。以上より、当初の予定より研究は進み、また新規性の高い、より深い考察へと進める可能性が非常に高くなってきた。また既に本研究に関し、1つの英文誌雑誌に投稿中である(査読有り)。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討により、低出生体重ラット腎においては、若年期よりミトコンドリア機能に関与する因子が複数低下しており、その後のFSGS病変に関与している可能性が示唆されており、さらにFSGS病変の主座である糸球体上皮細胞においてミトコンドリア機能(エネルギー代謝)が糸球体上皮細胞機能維持に関与している可能性も示されてきた。現在進めている低出生体重・正常出生体重個体の4週齢の腎を用いた網羅的な蛋白質発現解析をさらに進め、低出生体重群では正常出生体重群に比していかなる差異があるのか、そしてそれがエネルギー代謝といかに関係しているのかを詳細に検討していく予定である。ウエスタンブロットにてプロテオミクス解析にて得られたデータの裏付けも行っていく。またエネルギー代謝に関する網羅的な遺伝子発現解析も4週齢の腎を用い並行して実施していく予定である。また当初の2年次の予定通り、統計学的解析をなしえるよう、サンプリングした組織や尿に関しての解析を進める。組織解析項目としては、腎重量、腎皮質厚測定、糸球体数測定、糸球体サイズ測定、糸球体構成細胞数(総細胞数、メサンギウム細胞数、上皮細胞数)、尿細管径測定を行うと共に、病変については、糸球体硬化率、糸球体内硬化面積率、電子顕微鏡による超微細形態解析(主としてミトコンドリア形態の解析)等を行っていく。尿についてもアルブミン尿、8-OHdG測定等のELISA測定を行っていく。また糸球体上皮細胞を用いたミトコンドリア機能の上皮細胞機能への影響についても、蛋白発現解析で得られた結果を基に、siRNA等を用いてミトコンドリア機能に関するどのような因子が上皮細胞の機能・形態維持には必要なのかを解明し、低出生体重腎におけるFSGS病変形成への関与も明らかにしていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
網羅的な蛋白発現解析は、結果の客観性を担保するためにも外注にてこれまでも行っているが今後もさらに追加での解析を予定している(20万円程度)。またプロテオミクス解析の結果を担保するためにも、各種の抗体を用いた組織染色、ウェスタンブロットを行っていく予定であり、そのための抗体を購入予定である(30万円程度)。同様にsiRNAを用いた細胞実験のための試薬等の購入も予定している(20万円程度)。また尿解析のためのELISAキットも購入予定である。これらの実験を行って行くための各種試薬を購入する。論文の作成も開始予定であり、校正等に費用を要する予定である(2本分6万円程度)。
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