研究課題/領域番号 |
24591222
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構(千葉東病院臨床研究センター) |
研究代表者 |
今澤 俊之 独立行政法人国立病院機構(千葉東病院臨床研究センター), その他部局等, 研究員 (80348276)
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キーワード | 低出生体重 / 巣状分節状糸球体硬化症 / 糸球体上皮細胞 / ミトコンドリア |
研究概要 |
本研究では低出生体重ラットを用いヒト低出生体重個体類似の腎症モデルを確立し、「低出生体重個体における腎症発症にはミトコンドリアを介した機序が関与する」という新規仮説の検討を行うことを目標とした。初年度に予定通り、これまで存在しなかった低出生体重関連腎症モデルラットの確立に成功し、組織学的にもヒトの低出生体重個体での腎病変と類似の所見を生後8週齢に呈することを確認した。本モデルにおける腎組織学的検討により、尿細管ならびに糸球体上皮細胞における異常なミトコンドリアの存在を検出し、低出生体重個体における腎障害発症機序にミトコンドリアを介した機序が関与するという我々の仮説をサポートする結果を得た。さらに病変が惹起される前の生後4週齢における腎皮質における発現蛋白を正常出生体重個体との間でプロテオミクス解析を行い、得られた結果をバイオインフォマティクスを用いて解析(KEGG analysis)した結果、低出生体重群で減少している蛋白として、TCAサイクル関連が17個、脂肪酸代謝関連が20個、酸化的リン酸化関連が21個、解糖系関連が21個と多くのミトコンドリアエネルギー代謝に関与するたんぱくが減少することが判明した。更に個別の蛋白発現解析を行ったところ、complex Vタービン部分の蛋白発現が低下しておりATP産生機構最終段階での異常も確認された。すなわち低出生体重個体においては腎において元来ミトコンドリア・エネルギー産生機構の異常があることが明らかになってきた。現在、糸球体上皮細胞におけるエネルギー代謝機構に更に焦点を絞り、解析を進めている。ミトコンドリアをターゲットとした新たな腎疾患領域における研究へと繋がる大きな可能性も見え始めている。国立病院機構臨床研究センター内に腎ミトコンドリア研究室を設置し研究成果を公開するとともに、欧文学術誌に既に1報が掲載され、現在更に3報を投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に低出生体重関連腎症モデルの作成に予定通り作成し、更にその組織学的解析によりミトコンドリアの形態異常も確認された。そして本年度、プロテオミクス解析の詳細な解析とウェスタンブロット法による確認作業を行い、低出生体重個体においては、生来ミトコンドリア・エネルギー産生機構が低下していることが判明してきた。当初予想していて以上に興味深いデータが蓄積されつつある。培養糸球体上皮細胞実験では、上皮細胞の成熟過程におけるエネルギー産生機構の発達過程も同時に明らかにしてきている。既に欧文学術誌に1報がpublishされ(T Imasawa, Rossignol R. Int J Biochem Cell Biol. 2013 45:2109-18)、さらに3本を投稿中である。またその成果を示すように、国立病院機構臨床研究センター内に腎ミトコンドリア研究室を正式に設立しホームページ(http://chiba-easthp.jp/introduction/rinsyou/section0100)の作成を行い成果の公表も順調に進んでいる。本研究テーマに関連した講演依頼も受け始めている。
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今後の研究の推進方策 |
動物実験モデルを用いた解析はほぼ終了している。低出生体重個体では元来ミトコンドリア・エネルギー産生機構に異常があり、そのことが経年的に糸球体病変が形成される原因となることがこれまでの研究から示唆されたため、現在培養糸球体上皮細胞を用いた研究へシフトしている。上皮細胞成熟過程のエネルギー代謝の変化については解析がほぼ完了しており、今後は糸球体上皮細胞におけるエネルギー産生機構を変化させることで、糸球体上皮細胞の機能あるいは形態にどのような影響がもたらされるかの解析を進めていく。すでにエネルギー代謝を変化させるべく、AICAR、CompoundC、Metformin、OligomycinAを添加した培養液で糸球体上皮細胞を培養する実験を開始しており、今後、形態学的解析、機能解析を加えていく。また高血糖下では多くの細胞でエネルギー代謝機構が変化することが知られており、高血糖下で糸球体上皮細胞を培養した際のエネルギー代謝機構の変化についてもプロテオミクス解析を行うべく準備を進めている。また今後は培養実験にてプロテオミクス解析や網羅的遺伝子発現解析を行ってきたが、細胞成熟段階あるいは様々な条件下での細胞の酸素消費量変化やあるいはATP産生量等のエネルギー代謝に関わる基礎的データの集積にも努めていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究の進捗状況により、研究費の使用時期が変更となった。 外部機関での解析、抗体・試薬の購入、論文作成にかかる英文校正等で使用を計画している。
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