研究実績の概要 |
慢性腎臓病(CKD)患者では、病期の進行に伴い「やせ」や骨格筋萎縮など異化亢進を認め、心血管病発症・死亡リスクが上昇する。この機序としてインスリン作用減弱の関与が知られており、私どもは「尿毒素」がインスリン作用の障害を惹起するという仮説を立てた。 マウス脂肪前駆細胞3T3-L1を培養し、尿毒素としてフェニル酢酸(PAA)・インドキシル硫酸(IS)・pクレゾール(PC)・pクレゾール硫酸(PCS)を添加し、細胞のviabilityを確認した後、細胞の増殖能、アポトーシス、分化・成熟について検討した。インスリン感受性に対する各尿毒素物質の影響を検討するため、glucoseの取り込みを評価した。 その結果、PCは100μM以上の濃度で増殖分化の抑制により成熟脂肪細胞数が減少し、アポトーシスが増加すること、その結果、インスリン存在下、非存在下において細胞内へのグルコース取り込みが低下することを見出した(Tanaka S, Yano S, et al. Artificial Organs 2014)。一方で、PCSではこのような有意な細胞障害性を認めなかったが、細胞内へのグルコース取り込みにおいてインスリン作用の減弱を惹起していた(論文準備中)。現在この機序について、さらに検討を進めており、炎症性サイトカインとして知られる腫瘍壊死因子(TNF)αの分泌促進の関与を示唆する結果が得られている。尿毒素には多数の物質が知られ、おもに腸内細菌叢で産生され肝臓で代謝を受ける。PCよりも代謝を受けたPCSの有害性が低いことは合理的と思われる。以上から、尿毒素はさまざまな機序でインスリン作用の減弱やCKDにおける異化亢進に関与している可能性が示された。
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