研究課題/領域番号 |
24591234
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
森 泰清 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (40268371)
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研究分担者 |
沖垣 光彦 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (10333197)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 腹膜透析 / 線維化 / チロシンキナーゼ |
研究概要 |
腹膜硬化モデルの作成が平成24年度の研究計画の大きな基盤であった。同モデルの作成にあたっては、当初は腹膜透析液による化学刺激モデルおよび腹膜擦過による物理刺激を計画していたが、前者では腹膜硬化効果が不十分である可能性が少なからず、後者では予備実験段階で術者による腹膜硬化効果の差が著しく一定の評価が困難であると判明したことから、すでにこの分野で多数の研究者らにより報告があるChlorhexidine gluconate(クロルへキシジングルコン酸、以下CGと略)溶液(0.1%CGを15%エタノール、85%PBSに含有)の腹腔内投与による腹膜硬化の惹起とそれに対するPYK2欠損の効果判定を試みた。結果、同系統(C7/blk)の野生型マウスでは、0.1%CG溶液0.3mlを隔日投与することによって、腹膜中皮下の組織厚(submesothelial thickness)が生食のみ投与のコントロール群に比して、有意に増加していたのに対して、PYK2欠損マウスではその増加の程度が抑制されていた。投与開始14日目の以下4群(各群n=4ないし5)で定量比較した結果、野生型:生食処置(①)、CG処置(②)、PYK2欠損マウス:生食処置(③)、CG処置(④)のsubmesothelial thickness(マッソントリクローム染色による検討)は、①23.9±2.6μm (mean±SE)、②104.1±12.0μm、③16.5±1.9μm、④67.0±2.9μmとなった。すなわち、野生型における肥厚(①vs②、P<0.01)に比して、PYK2欠損マウスではCG投与による肥厚が有意に抑制されることが明らかとなった(②vs④、P<0.05)。さらに現在、この肥厚抑制の機序を解明するために、炎症細胞浸潤の変化をF4/80、線維芽様細胞への分化をαSMAなどのマーカーによる免疫染色を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要に記したように、PYK2欠損マウスと野生型マウスを用いた腹膜硬化モデルの確立に当初予定していた以上の時間を要した。ただし、実験費用はマウス購入代金がそのほとんどを占めたために大幅に使用することはなく、次年度の研究に費やせる結果となった。また、研究責任者と共に、その指導下で日々の実験を行う大学院生の不足も実験結果の遅延の一因ではあった。そのために、腹膜から単離した中皮細胞に関するin vitroでの検討が成し得ていない。これらの点において、研究は計画よりやや遅れていると自己評価している。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に確立し得て、野生型とPYK欠損マウスの間の表現系に明らかな差が得られたCGモデルを基にして、現在進行している肥厚に関わる細胞の動態を整理する。また、腹膜組織のサイトカイン発現量については、IL-6、VEGF、TGF-β、CTGFをRT-PCR法により、定量化する。それと並行して、今年度より増員となった大学院終了後の医員等に指導しながら腹膜より単離したPYK2欠損中皮細胞、血管内皮細胞、繊維芽細胞における接着因子・サイトカイン発現に必須の転写因子NF-κBやNFTAの活性をGel Shift法等で検討する。また、アンジオテンシン受容体シグナルにPYK2の活性化は重要な因子であり、NADPH-oxidase活性化と活性酸素産生も関与している可能性が高いため、これらの活性化の検討も合わせて行う。これらの実験はこれまでに私たち自身で経験のある手技であり、各実験を研究全体の日程と良く照らし合わせながら、推進させていくことが可能と考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
上述のように平成24年度にCGモデルが確立されておれば取りかかる予定であった腹膜肥厚に関わる細胞の動態や腹膜組織サイトカイン発現以後の検討に充てる費用が結果的に未使用となっており、平成25年度の費用として使用する。その内訳は以下の如くである。マウス飼料・実験動物 1,000千円 生化学実験、組織学的実験、免疫組織学的実験の消耗品 1,100千円。
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