PYK2の過剰作用の抑制が腹膜透析(CAPD)時の腹膜線維化を軽減するという仮説を立てて本研究を開始した。まずはPYK2欠損マウスを利用したCAPDモデル動物の作成にあたった。いくつかの手法によるモデル作成を試みた後、0.1% Chlorhexidine gluconate(以下CGと略)溶液の腹腔内投与による腹膜硬化モデルを採用した。 CG投与開始14日目の以下4群(各群n=4~5)で定量比較した結果、野生型:生食処置(①)、CG処置(②)、PYK2欠損マウス:生食処置(③)、CG処置(④)の腹膜中皮下の組織厚(submesothelial thickness)は、①23.9±2.6μm (mean±SE)、②104.1±12.0μm、③16.5±1.9μm、④67.0±2.9μmであった。すなわち、野生型における肥厚(①vs②、P<0.01)に比して、PYK2欠損マウスではCG投与による肥厚の程度が有意に抑制されることが明らかとなった(②vs④、P<0.05)(以上、平成24年度)。次に、この肥厚抑制の機序を解明するために、炎症細胞浸潤の変化をF4/80、MPO、CD4、CD8、線維芽様細胞への分化をαSMAなどのマーカーによる免疫染色を行い、real time-RT PCRによる腹膜のサイトカインアッセイを行い、腹膜肥厚に関わる因子を同定することが平成25年度の主たる目標であった。これまでに平成24年度に作成した組織標本を利用した免疫染色では、PYK2欠損マウスにおいてF4/80陽性マクロファージ浸潤が増加している傾向が見られた。以上、その機序までは解明でき得なかったが、本研究の知見は腹膜組織におけるPYK2の活性化が腹膜肥厚に繋がることを明らかとし、PYK2を分子標的とした新規治療法開発の意義を示唆している。
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