研究実績の概要 |
慢性腎臓病に伴う動脈硬化性病変では、中膜の石灰化が特徴的である。石灰化病変は心血管死と相関し、慢性腎臓病患者の予後を左右する最も重要な因子の一つであるため、そのメカニズムの解明は治療戦略をたてるうえで大変重要である。本研究では培養細胞および動物モデルを用いて、動脈石灰化に関わる遺伝子調節の変化とそれに伴うエピジェネティック変化を検討することを目的とした。 培養血管平滑筋細胞を用いた検討では、高リン負荷による血管平滑筋細胞の骨様細胞への形質変換のモデルを用いて、この変化に転写因子KLF4が関与することを同定し報告した(Yoshida et al., J Biol Chem, 2012)。すなわち、リン負荷は平滑筋分化マーカーの発現を低下させ、骨分化マーカーの発現を亢進させるが、これらの変化にKLF4が関与することを発見した。ノックアウトマウスを用いた検討では、内皮細胞におけるKLF4が内膜肥厚型動脈硬化に抑制的に働くことを発見し報告した(Yoshida et al., J Am Heart Assoc, 2014)。一方、血管平滑筋細胞特異的にNF-kBを抑制するマウスを樹立した。このマウスに血管傷害を起こした場合、内膜肥厚性動脈硬化の形成が有意に抑制されることから、血管平滑筋におけるNF-kBの重要性が生体内でも明らかとなった(Yoshida et al., J Am Heart Assoc, 2013)。腎不全病態においてもNF-kBが血管石灰化に関与している知見が得られつつあり、そのエピジェネティックメカニズムを検討中である。また慢性腎不全ラットに高血糖を誘導し、糖濃度・リン濃度と血管石灰化との関係を解析した(Yoshida et al., J Vasc Res, 2013)。 このように、本研究では血管病変の形成における転写調節メカニズムについて新知見を得ることができた。
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