研究課題/領域番号 |
24591244
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
野々口 博史 北里大学, 付置研究所, その他 (30218341)
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研究分担者 |
中西 健 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (70217769)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | バゾプレッシン / アルドステロン / 核内受容体 / ミネラルコルチコイドレセプター / 酸排泄 / 腎集合尿細管間在細胞 |
研究概要 |
腎臓での水、ナトリウム再吸収と酸排泄を司るホルモンであるバゾプレッシンにはV2, V1aの2種類の受容体があり、ともに腎に発現しているが、V2受容体は水、ナトリウム輸送に関連し、V1a受容体(V1aR)は酸塩基平衡と関連すると考えらえてきた。バゾプレッシンV1a受容体欠損マウスは、アルドステロンの作用低下から4型腎尿細管性アシドーシスになることを私達は報告したが、その機構について検討した。アルドステロンの受容体であるミネラルコルチコイド受容体(MR)は、核内受容体であり、細胞質から核内へ輸送されて、genomicな変化を起こすことが知られている。そこで、MRの細胞質核内輸送を、細胞質と核分画に分けたWestern blot法と免疫染色法の二つで検討した。腎臓での主たる酸排泄部位である腎集合尿細管間在細胞であるIN-IC cellにアルドステロンを投与すると、30分後にはMRの核内への輸送が見られた。siRNAにより、V1aR遺伝子をノックダウンすると、その作用は完全に消失した。アルドステロン投与30分後には、MR発現は増加しておらず、non-genomicな作用であった。バゾプレッシンでも、同様に、MRの核内への輸送が見られた。その際のMR輸送蛋白やRan cycleの変化を見ると、アルドステロンによるRCC-1の核内での発現増加と、バゾプレッシンによるRan Gap1の発現低下が認められた。この二つの変化は、核内のGTP型Ranの増加からMRの核内への輸送を刺激すると考えられた。 以上の結果より、腎での酸排泄部位である腎集合尿細管間在細胞における酸排泄を行うアルドステロンの作用には、バゾプレッシンV1a受容体の存在が必須であることが判明した。その機序としては、V1aRが細胞骨格形成に与し、それが破たんするためにMRの核内輸送が障害される可能性が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
アルドステロンの酸排泄に対する作用を考える上で、酸塩基関連輸送体への効果を個々に見てきたが、もっと上流に位置するアルドステロンの受容体であるミネラルコルチコイドレセプター(MR)の核内受容体としての役割の面からの検討を行い、私たちにとって、未知の分野ではあったが、おおむね、満足の行く結果が得られたと考えている。核内受容体の核内輸送は、cheperoneと呼ばれる輸送関連蛋白が関与するとされているが、非常に多くの蛋白が報告されており、さらに詳しく検討するとなると、たくさんの抗体を使用する必要があり、どこまで検討すべきかを考慮中である。今後は、腎虚血との関連で腎臓におけるエリスロポエチン産生に対するアルドステロンの作用を検討して、別角度からのアプローチを試みる予定であり、研究は順調である。 腎臓の集合尿細管の間在細胞のcell lineは、世界に先駆けて私たちがSV40ラットから作成したものであり、世界中でも私たちしか持っておらず、それが、私たちの研究の独創性の源となっている。現在、集合尿細管を構成するもう一つの細胞である主細胞のcell lineも作成中であり、それができれば、さらに独創性が高まることは明らかである。iPS細胞からのアプローチでは、本来の細胞の機能が分からないという欠点があり、本来の細胞の機能を備えた私たちのcell lineでの有用性を高めることで、研究の独創性と価値を高めていくことで、更なる達成度の向上を図っていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
アルドステロンの作用は、酸塩基平衡の調節だけにとどまらず、虚血とも関連し、低酸素刺激によるhypoxia-induced factor (HIF)を活性化することが、私たちの検討で明らかになった。そこで、低酸素刺激が最も刺激因子となる腎臓でのエリスロポエチン産生について、検討していく予定である。これまで、腎臓におけるエリスロポエチン産生は、間質のfibroblast (REP細胞)が行っているとされてきたが、REP細胞は、人においてはまず認められない極度の貧血にした上に、さらには、かなりの低酸素状態にしないと出現しないことがわかっており、生理的な意義はないと考えられる。私たちの検討では、正常状態のマウスでは、エリスロポエチン産生は、間質のfibroblastではなく、集合尿細管間在細胞で主に行われていることが明らかになった。近位尿細管においても、わずかに認められている。今後は、このエリスロポエチン産生におけるアルドステロンの役割の検討に入る。アルドステロンは、酸塩基平衡を司るホルモンであるだけでなく、造血ホルモンであるというのが、私たちの仮説であり、その場が、集合尿細管間在細胞であり、その実証を行っていく予定である。レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の阻害薬であるACE阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)による貧血の機序を私たちの説はきれいに説明しており、臨床面でのメリットも大きい研究であると考えられる。
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次年度の研究費の使用計画 |
私たちの今後の研究では、蛋白発現を見るWestern blot, 免疫染色と遺伝子発言を見るin situ hybridizationが主たる技法となる。Western blotでは、如何に良い抗体を入手できるかがポイントであり、海外の研究者とのコネクションを生かして、多くの抗体を入手していくが、多くの抗体の購入も必須であり、それに多くの支出を要する。抗体は、免疫染色でも重要であり、やはり、抗体購入費が消耗品のかなりの部分を占めると考えられる。動物としては、バゾプレッシンV1a受容体欠損マウスとワイルドタイプマウス、さらにはSDラットを使用するため、その購入、維持も行う。マウスは、兵庫医科大学で飼育中のものを、輸送して、当センターの研究棟で飼育を行う。エリスロポエチンだけでなく、その代謝に重要なPHD2, 低酸素刺激の主たる経路であるHIF1a, 2aやエリスロポエチン産生を転写レベルで抑制するとされているGATA2,3の発現を検討する。アルドステロンが、エリスロポエチン産生を制御する仕組みとして、アルドステロンによる核内受容体であるGATA2,3の核内への輸送阻害を考えており、それについての検討も行う。の作用も検討する。in situ hybridizationは、共同研究で、北里大学医学部生理学教室河原教授にお願いする。現在、アルドステロンによるエリスロポエチン産生作用に関する論文を作成中であり、その投稿間近である。
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