研究課題/領域番号 |
24591244
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
野々口 博史 北里大学, 付置研究所, 副院長 (30218341)
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研究分担者 |
中西 健 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (70217769)
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キーワード | アルドステロン / バゾプレッシン / 心房性ナトリウム利尿ペプチド / 集合尿細管 / 間在細胞 / エリスロポエチン / 貧血 |
研究概要 |
腎臓は、水、ナトリウム代謝だけでなく、酸塩基平衡の調節をも司る臓器である。心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)は、腎臓の尿細管のほぼすべての部位に作用し、セカンドメッセンジャーであるcGMP産生を介して、強力な利尿作用を示すことを、我々は以前報告したが、ANPの髄質部ヘンレの太い上行脚(MAL)における重炭酸イオン(HCO3-)再吸収に対する作用を、microperfusion法で検討した。バゾプレッシンは、MALにおいて重炭酸イオン再吸収を抑制したが、ANPはその作用を阻害した。ただ、ANP単独では効果は見られなかった。以上より、ANPはバゾプレッシンの作用を阻害することで、MALでの重炭酸イオン再吸収を促すことで、水、ナトリウムだけでなく、酸塩基平衡に影響することが判明した(Plos Oneに掲載)。 また、腎臓では、造血ホルモンであるエリスロポエチンが産生され、腎不全の進行とともに、腎性貧血が見られることが知られているが、これまでは、間質の繊維芽細胞で産生されると考えられてきた。我々は、北里大学生理学教室との共同研究で、高感度in situ hybridization法を用いて、集合尿細管間在細胞で産生されることを明らかにした。繊維芽細胞でのエリスロポエチン産生は、ヘマトクリット15%以下の、極度の貧血でないと認められず、生理的な意義が少ない事も明らかにした。また、Western blot, real time PCRなどの手法も用いて、間在細胞におけるエリスロポエチン産生は、低酸素刺激だけでなく、アルドステロンによっても制御されており、PHD2の活性化とバゾプレッシンV1a受容体の存在が必須であることも明らかにした。現在は、論文投稿中である。現在、ミネラルコルチコイド受容体の核内輸送との関連について、検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
心房性ナトリウム利尿ペプチドのヘンレの太い上行脚での作用については、論文化することができて、一応の区切りをつけることが出来た。重炭酸イオンは、ヘンレの太い上行脚において、バゾプレッシンにより再吸収が抑制されるが、心房性ナトリウム利尿ペプチドはバゾプレッシンの作用を抑制することで、再吸収を促進することが判明した。また、バゾプレッシン非存在下では、心房性ナトリウム利尿ペプチドの作用は認められなかった。心房性ナトリウム利尿ペプチドの作用は、そのセカンドメッセンジャーであるcGMPによっても確認された。我々は、心房性ナトリウム利尿ペプチドがヘンレの太い上行脚では、バゾプレッシンによるcAMP産生を抑制しないことを報告しており、心房性ナトリウム利尿ペプチドの作用は、バゾプレッシンによるcAMP産生よりも先の過程においておこなわれるものと推定した。心房性ナトリウム利尿ホルモンにも、バゾプレッシンと同様に、酸塩基平衡調節作用があることが分かった意義が大きいと考えられる。 腎臓におけるエリスロポエチン産生は、間質のfibroblastで行われると考えられてきた。しかし、その間質での産生を見るには、ヘマトクリット15%以下の極度の貧血状態にすることが必須であり、生理的な意味合いに疑問を持ち、in situ hybridization法で、尿細管、特に集合尿細管間在細胞で、正常状態では産生されることを明らかにした。尿細管では、腎臓の皮質部で産生され、近位尿細管、ヘンレの太い上行脚、遠位尿細管、集合尿細管での発現を検討したが、集合尿細管間在細胞で主に産生されることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
エリスロポエチンの産生部位が、生理的条件下では、間質ではなく、尿細管細胞であることを示すデータをさらに蓄えていきたい。これまでは、正常状態と低酸素状態を比較検討したが、軽いものから重いものまで貧血の程度に応じたエリスロポエチン産生の変化が尿細管においてどの様に認められるのかを検討していきたい。これまでは、HIF2αが低酸素、貧血でのエリスロポエチン産生に重要であるとされてきたが、普通の人間が一生遭遇することのない極度の貧血状態での検討であり、薬理学的意味合いになり、生理的な意味合いは検討されていないのが実情である。今後は、エリスロポエチンの生理的産生機構を探っていきたい。 アルドステロンによるエリスロポエチン産生制御に関しては、まず、マウスの副腎摘出によりアルドステロン分泌をなくした状態での腎におけるエリスロポエチン産生の変化を、北里大学生理学教室河原教授との共同研究で、in situ hybridization法を用いて明らかにしたい。さらには、間在細胞のcell line (IN-IC cell)用いて、アルドステロンによるエリスロポエチン産生刺激の細胞内機構について、HIF2αの関与の有無やPHD2詳しくの意義などの面から検討していきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度の実験では、細胞培養でのサンプル作成が間に合わなかったものがあり、予定していたWestern blotの実験に入れず、そのための抗体やゲル、発色試薬などの購入を控えたために、残金が生じる結果となってしまった。 抗体を4種類購入する費用で約20万円程度かかり、続いて行うWestern blotのゲルや発色試薬などの費用に約12万円程度の支出を見込んでいる。
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