研究概要 |
腹膜透析では透析液による腹膜劣化のため、10年以上の長期間治療を継続することが困難である。腹膜劣化の原因として、透析液中に含まれる高糖濃度やブドウ糖分解代謝産物(GDPs)などの非生理的物質が考えられている。我々は培養腹膜中皮細胞において、透析液中に含まれるブドウ糖の濃度により、インテグリン依存性の細胞接着が阻害され、中皮細胞の創傷治癒が阻害されることを報告した(Tamura M, Kidney Int, 63: 722, 2003)。また、インテグリン活性化ペプチドであるPHSRNがインテグリン依存性の細胞接着を亢進させ、腹膜中皮細胞の再生を促進させることを、培養腹膜中皮細胞とラット腹膜透析モデルの両者において明らかにした(Miyamoto T, Tamura M, Nephrol Dial Transplant, 25: 1109, 2010)。さらに、ブドウ糖に替わる浸透圧物質として開発されたIcodextrinでは、ブドウ糖のようなインテグリン依存性の細胞接着阻害作用がないことも明らかにした(Matsumoto M, Tamura M, Life Sci, 90: 917, 2012)。このように本研究は腹膜透析における腹膜劣化の発症機序の解明や、腹膜劣化進展の抑制について、インテグリンを介した創傷治癒という観点からの検討を行うことで、腹膜透析療法の長期間にわたる安全な実施を期待出来るようになる可能性があり意義が高いものと考える。
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