研究課題
アルツハイマー病(AD)の病態にミトコンドリアの機能異常が関与していることが示唆されており、その機序として、アミロイドβ蛋白(Aβ)がミトコンドリア内に蓄積し、ミトコンドリアの機能不全を引き起こす可能性が考えられている。しかし、ミトコンドリアへのAβ蓄積のメカニズムについては不明な点が多く、ミトコンドリア内でのAβ産生の関与についても明らかではない。本年度、我々はミトコンドリア内におけるAPP代謝,Aβ産生について検討するため、培養細胞を用いて検討した。Swedish変異型のAPPを過剰発現するヒト神経芽細胞腫(SH-SY5Y)細胞を、遠心分離を用いた細胞下分画法によりミトコンドリア画分・マイクロゾーム画分に分離した。ウェスタンブロッティングでの解析では、APPはミトコンドリア・マイクロゾーム画分に同程度分布しており、BACE1はマイクロゾーム画分優位、Presenilin1、Nicastrin、APH-1aL、PEN-2はミトコンドリア画分優位に分布していた。α-CTF、β-CTFは両画分に存在していたが、β-CTF/α-CTF比はマイクロゾーム画分で有意に高かった。以上の結果から、ミトコンドリア画分内にはAPP,BACE1,γ-secretase複合体因子が豊富に存在しており、ミトコンドリア内においてもAPPの代謝、Aβ産生が行われている可能性が示唆された。一方、Aβ分子の中でも、第22位と第23位のアミノ酸残基においてターン構造を有するAβコンフォマーは毒性と活性酸素誘導能がより高いとされ、毒性Aβコンフォマーと呼ばれている。ヒト脳や脳脊髄液における毒性Aβコンフォマーの存在様態は不明であるため、その生化学的同定を試みたが、免疫沈降とWestern blot法の組み合わせにより、可溶性の毒性コンフォマーの同定が可能となった。AD脳ならびに、ヒト脳脊髄液では可溶性Aβの少なからぬ部分が毒性コンフォマーで占められており、総Aβと同様にN-/C-末端が不均一であることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
ADの病因関連分子は脳血管や老人斑に沈着するAβであるが、Aβがシナプス障害や神経細胞死をきたす機序に関しては未だ解明されていない。一方、ADではAβのフリーラジカル化して毒性構造物が増加していることが示されてきた。本研究では、酸化ストレスがADの病態に関与していることを示す上記の所見に基づいて、ADにおけるミトコンドリア障害について生化学的に解析する事を目的とする。本年度は、ミトコンドリア画分内にはAPP,γ-secretase複合体因子が豊富に存在しており、ミトコンドリア内においてもAβ前駆体蛋白(APP)の代謝、Aβ産生が行われている可能性が示唆された。また、毒性AβコンフォマーはAlzheimer病(AD)の新たな治療標的やよりよい診断マーカーとして期待されるが、ヒト脳や脳脊髄液における毒性Aβコンフォマーの存在様態は不明であるため、その生化学的同定を試みたところ、免疫沈降とWestern blot法の組み合わせにより、可溶性の毒性コンフォマーの同定が可能となった。
今後は、本年度の研究で明らかになった、ミトコンドリアで産生されるAβが如何にして毒性作用を発揮するかに関して、実験を推進したい。また、第22位と第23位のアミノ酸残基においてターン構造を有する毒性Aβコンフォマーについては、今後、ヒト脳におけるAD病変の進展に際していつから毒性Aβコンフォマーが脳脊髄液中に出現してくるか検討が必要である。
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