研究概要 |
本年度は、神経型アセチルコリン受容体抗体(nAChR)測定系の開発を進めた。ヒト脳組織より抽出したRNAからcDNAライブラリーを作成し、PCR法を用いてnAChR(α:2, 3, 4, 5, 6, 7, 10, β: 1, 2, 3, 4)をクローニングした。そのcDNA断片を用いて哺乳類細胞におけるタンパク発現プラスミドを構築した。次にこれらのプラスミドをCOS-7細胞に導入して、一過性過剰発現細胞系を確立した。また、HEK293細胞にプラスミドを導入して安定過剰発現細胞株を樹立した。これらを用いて、免疫蛍光抗体法によるnAChR測定系の開発に取り組んだ。 その結果、遺伝子導入COS-7細胞、HEK293細胞を用いて、患者血清の抗nAChR抗体の半定量測定系を確立することが出来た。nAChRの中でもα3に注目し、これに対して自己抗体をもつ自己免疫性自律神経性ガングリオノパチー(autoimmune autonomic ganglionopathy: AAG)患者血清をサンプルとして、免疫蛍光抗体法による抗体測定とその特異性をCOS-7細胞、HEK293細胞から抽出したタンパクを用いてWestern blot法で確認することが出来た。また、α3とβ4サブユニットを共発現させたHEK293細胞において希釈患者血清中のIgGが、α3β4受容体に結合することを明らかにした。さらに、希釈患者血清を37℃で反応させると、ヒトIgGとα3がともに細胞表面から細胞質内に移行することを明らかにした。 これは、AAG血清中のIgGが、培養細胞表面上のnAChR(α3β4)に結合した後、細胞質内に取り込まれることを証明したもので、自己免疫性神経疾患の自己抗体による細胞障害機序を示し、神経症状が出現する過程を説明するものとして意義あるものである。
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