研究課題/領域番号 |
24591269
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
山下 賢 熊本大学, 医学部附属病院, 助教 (20457592)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 筋萎縮性側索硬化症 / 小胞体ストレス / iPS細胞 / 運動ニューロン |
研究概要 |
申請者は致死的難病である筋萎縮性側索硬化症(ALS)の根治的治療法の確立を、最終的な目的としている。我々は先行研究において、変異SOD1を有するALSモデルの運動ニューロン変性に小胞体ストレスが関与し、さらに抗小胞体ストレス作用を有するDerlin-1およびBiP、DJ-1の過剰発現が変異SOD1による神経変性を抑制することをin vitroの実験系を用いて明らかにした。そこで本研究では、1.弧発性ALS患者由来のiPS細胞から分化した脊髄運動ニューロンを用いて小胞体ストレス関連マーカーを検索することにより、弧発性ALS病態における小胞体ストレスの関与を明らかにするとともに、根治的な治療法開発のため、2.小胞体シャペロンBiPや、ERADに関わるDerlin-1を過剰発現するアデノ随伴ウイルスベクターを用いて、ミスフォールディング蛋白の小胞体蓄積を軽減し、小胞体ストレスを緩和することで運動ニューロン変性を抑制することを目的とする遺伝子治療の可能性について検討する。さらに3.弧発性ALSの運動ニューロン変性におけるDJ-1の関与をさらに実証するために、弧発性および家族性ALS患者由来のiPS細胞から分化した脊髄運動ニューロンに、DJ-1遺伝子を導入し、ALSの原因蛋白である変異SOD1やTDP-43、FUSと、DJ-1の相互作用の有無、各種小胞体ストレス関連マーカーに及ぼす影響や細胞死に及ぼす影響を評価する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の計画として、弧発性ALS患者由来のiPS細胞を用いて、ALS病態における小胞体ストレスの関与を解明するために、①疾患患者由来iPS細胞の作成と脊髄運動ニューロンへの分化誘導、および②iPS細胞由来の脊髄運動ニューロンにおける各種小胞体ストレスマーカーの比較を計画していた。 ①については弧発性ALS患者7名および家族性ALS患者3名(SOD1H46R変異1例、FUSG492Efs変異1例、その他1例)、脊髄性筋萎縮症患者2名などから皮膚線維芽細胞を提供していただき、iPS細胞の樹立に成功した。それらのiPS細胞を用いて運動ニューロンへの分化誘導を試みたが、細胞の生存性を維持することに難渋し、現時点では効率的な運動ニューロンへの分化法が確立できていない。現在、様々なプロトコールを入手し、誘導条件を模索中である。 ②についてはiPS細胞由来の脊髄運動ニューロンが誘導できなかったことから、その基礎データを得るために、我々が新たに見出したFUS/TLSG492Efs変異をマウス運動ニューロン様の培養細胞(NSC-34細胞)に遺伝子導入し、細胞死、小胞体ストレス各種マーカーの発現、内在性TDP-43に及ぼす影響を検討した。野生型FUSおよびR521C変異、R514S変異、G492Efs変異をNSC-34細胞に過剰発現しても細胞死および細胞増殖能のいずれにも有意な差異は見られなかった。またウェスタンブロット法でのATF6およびBiP、GRP94、Calnexin、Caspase-12,CHOPの蛋白発現も変化は確認できなかった。しかし野生型あるいは変異型に関わらず、FUSを過剰発現すると内在性TDP-43がリン酸化を受け、またリン酸化TDP-43はよりG492Efs変異型FUSと相互作用を示すことを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に達成できなかった、iPS細胞から脊髄運動ニューロンへの効率的な分化を実現し、さらにiPS細胞由来の脊髄運動ニューロンにおける各種小胞体ストレスマーカーの発現を比較する予定である。効率的な運動ニューロンへの分化法については、様々なプロトコールを入手し誘導条件を検討するとともに、iPS細胞から運動ニューロンへの分化経験が豊富な名古屋大学宇理須研究室と共同研究を行い、情報交換することで現状を打開する予定である。 またFUS遺伝子変異を有するALSの病態においても、TDP-43のリン酸化が関与している可能性が示されたことから、FUSとTDP-43の相互作用を規定する因子を解明するためにプロテオミクス手法を用いて、野生型およびR521C変異、R514S変異、G492Efs変異型FUSと結合するタンパク質を網羅的に解析し、Key factorを同定する予定である。平成24年度にはFUSG492Efs変異を有するALS患者末梢血よりiPS細胞の樹立に成功しており、iPS細胞由来の脊髄運動ニューロンにおいても同様の検討を行い、変異FUSを有するALSにおけるTDP-43のリン酸化の関与の確証を得ることを期待している。
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次年度の研究費の使用計画 |
iPS細胞の作製・維持および運動ニューロンへの分化には、細胞培養デイッシュ、細胞培地、血清、抗生物質ほかの培養のための試薬および細胞培養器、細胞培養用安全キャビネットなどが必要である。レンチウイルスベクターおよびアデノ随伴ウイルスベクターの作製において、前段階での遺伝子操作では、大腸菌による培養、増殖、精製が必要である。制限酵素やPCR法を用いたクローニング、遺伝子配列の確認に必要な試薬の購入に充てる。また、ウイルスベクターの増殖のために、細胞培養デイッシュ、血清を用い、抗生物質ほかの培養のための試薬および細胞培養器、細胞培養用安全キャビネット、超遠心器の使用・維持費が必要である。
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