近年、アルツハイマー病やポリグルタミン(PolyQ)病など多くの神経変性疾患において、異常蛋白質の毒性オリゴマーが神経変性を引き起こすと考えられるようになった。本研究では、申請者が独自のPolyQ蛋白質オリゴマーアッセイを用いて同定した異常伸長PolyQ病蛋白質オリゴマー阻害化合物の中で、既にショウジョウバエモデルに対する治療効果を確認している9化合物について、1)マウスにおける薬物動態を解析し、2)PolyQ病モデルマウスの神経症状に対する治療効果を確認し、3)PolyQ病モデルマウスにおける異常伸長PolyQ蛋白質の蓄積に対する治療効果を確認し、PolyQ病に対する分子標的治療の開発を行った。 今年度以前の研究成果としては、この9化合物の1つQAI1が、経口投与により脊髄小脳変性症(SCA1)のモデルマウス、および球脊髄性筋委縮症(SBMA)のモデルマウスに対して行動学的、組織学的効果を示し、さらに試験管内においてAβの凝集を若干阻害したものの、アルツハイマー病やパーキンソン病のモデルショウジョウバエ、さらにアルツハイマー病のモデルマウスには明確な治療効果が確認できなかったことを示した。また、QAI1の経口投与により血中、および脳内のQAI1量が上昇することも確認した。 今年度は、昨年度に引き続き、世界的に最も患者数の多いPolyQ病であるSCA3に対するQAI1の治療効果の検討の前段階として、我々が作製したSCA3モデルマウスの基礎データ収集の続きを行った。具体的には、経時的にロータロッドテストや自発運動解析を用いて神経症状、脳切片を作製し免疫染色により異常蛋白質の蓄積や神経変性などの組織学的変化、さらに体重や寿命を解析した。しかしながら、現在までに明確な発症や症状は確認できなかった。さらに、現在までに得られた他のモデルマウス等に対する治療効果の論文作成を行った。
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