研究課題
背景:昨年度は、消化管運動を調節するホルモンとして知られているグレリンの分泌機能が、シヌクレイノパチー(多系統萎縮症)症例では障害されることを見出し報告した(J Neurol 2013 Aug;260(8):2073-7)。この研究成果は、消化管からのグレリン分泌に関与する自律神経あるいは腸管神経の障害を示唆する点で重要である。この結果を受けて、グレリンの作用と拮抗するホルモンであるレプチンの分泌に病的な変化が及んでいるかを検討する必要性が生じる。末梢脂肪組織より分泌されるレプチンは、視床下部に作用して食欲を抑制し、また、交感神経を刺激し血圧を上昇させ、エネルギー消費増大をもたらす。レプチンの機能不全は、起立性低血圧の要因になり得るとされている。レプチンは、多系統萎縮症の自律神経症状の中核である起立性低血圧の発症に関与するか、を検討する必要がある。方法:多系統萎縮症30例、疾患コントロールとして進行性核上性麻痺と大脳皮質基底核変性症を合わせて24例、コントロール24例において、早朝空腹時の血清レプチンをRIA法にて定量し、体格指数(BMI)との相関を検定した。MSAでは、血清レプチン値と起立後血圧の収縮期低下幅ならびに拡張期低下幅との相関を検定した。結果:MSAでの血清レプチン値は5.6±0.7 ng/mlであり、疾患コントロール(4.6±1.2 ng/ml)ならびにコントロール群(6.0±1.1 ng/ml)と比較して有意差は無かった。多系統萎縮症の血清レプチン値とBMIは明らかに相関した(r=0.44, P=0.01)。多系統萎縮症における血清レプチン値と起立後血圧の収縮期低下幅(P=0.7)ならびに拡張期低下幅(P=0.8)との相関はなかった。結論:今回の検討では、多系統萎縮症患者においてレプチン分泌低下は見られなかった。レプチン分泌とBMIとの相関も保たれていた。多系統萎縮症の起立性低血圧におけるレプチン分泌の関与は否定的であった。
2: おおむね順調に進展している
これまでは、シヌクレイノパチーの腸管神経機能に影響する因子として、グレリン分泌異常の存在を見出しました。さらに平成25年度は、エネルギー代謝に重要な役割を演ずるレプチンが血圧維持に関与することに着目し、シヌクレイノパチー症例の血圧異常とレプチン分泌との関連を検討し、陰性所見ではありますが有用な知見を得ました(論文作成中)。このように現在まで、本研究プロジェクトでは新しい知見の集積ができており、研究はおおむね順調に進展していると考えます。
現在、シヌクレイノパチー症例での腸管神経病理の検討を進めています。これまで、パーキンソン病の腸管神経ではレビー小体病理の存在が知られていますが、現在進めている多系統萎縮症の腸管神経では、特異的な病理学的マーカーを見出すことができておりません。そのため、定量的あるいは半定量的病理検索にて、多系統萎縮症の腸管神経の病変を明らかにする必要性を考えます。しかし 一般的に腸管神経においては、病理変化の定量的評価は極めて困難であります。今後は、新たなアイデアと手法で、腸管神経の病変を明らかにする必要があると考えております。
物品費が当初の予想よりも下まわったことが、次年度使用額の生じた主な要因と考えます。シヌクレイノパチー症例の腸管神経の病理検索のために必要な、各種抗体、ガラス器具、画像記録装置などの購入費用。研究成果の発表のため国内・国際学会へ参加するための旅費。英文論文作成のための英文校正費用、などの使用を計画しています。
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自律神経
巻: 51 ページ: 10-17
Journal of Neurology
巻: 260 ページ: 2073-2077
10.1007/s00415-013-6944-9