研究実績の概要 |
脳内の鉄沈着を伴う神経変性をきたす疾患群であるNBIA type2(Neurodegeneration with brain iron accumulation)の原因遺伝子として、PLA2G6が同定されている。前年度までに我々は、100週齢(進行期)のiPLA2β(PLA2G6遺伝子のコードするカルシウム非依存性フォスフォリパーゼA2β)欠損マウスでは脳内に著明な鉄沈着が見られることを示した。 iPLA2β欠損マウス脳では、100週齢において、鉄トランスポーターであるdivalent metal transporter 1(DMT1)の発現が著明に亢進していた。加えて、DMT1などの鉄トランスポーターの発現を調節する、iron regulatory protein(IRP1,および2)の発現亢進も見られた。また、iPLA2β欠損マウス脳では、進行期において酸化脂質である4-HNEの著明な増加を認めた。 続いて、ヒト神経芽腫由来細胞株であるSH-SY5Y細胞において、PLA2G6遺伝子をノックダウンしたところ、iPLA2β欠損マウスと同様に、DMT1、IRP1、IRP2の発現増加が見られた。またPLA2G6遺伝子のノックダウンにより、ミトコンドリア内膜の変性(内膜蛋白であるCCOの発現低下)、ミトコンドリアにおけるATP産生の減少が見られた。 ミトコンドリアは細胞内の鉄センサーであり、ATP産生低下や酸化ストレスの増加を感知するとIRPの活性化を介して細胞内に鉄を取り込むことが知られているため、我々の成果より、iPLA2βが欠損すると、ミトコンドリア内膜変性が惹起されATP産生が低下し、同時に活性酸素種が増加することにより、IRPが活性化され鉄トランスポーターの発現が増加するために、脳内の鉄沈着が増強するというメカニズムが示された(Beck et al., in submission)。
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