研究課題/領域番号 |
24591295
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
隅 寿恵 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (30403059)
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研究分担者 |
別宮 豪一 大阪大学, 医学部附属病院, 医員 (20626353)
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キーワード | チロシンヒドロキシラーゼ / 膜変性 / ミトコンドリア / PLA2G6 |
研究概要 |
昨年度報告した、PLA2G6遺伝子ノックアウトマウスの線条体において経過とともに増加するチロシンヒドロキシラーゼ(TH)陽性の大型円形構造物の細胞内局在や意義を明らかとするために、ドパミントランスポーター(DAT)、小胞性モノアミン輸送体2(VMAT2)、αシヌクレイン、リン酸化αシヌクレイン、ミトコンドリア膜マーカー2種類に対する免疫組織学的染色を施行しTHの染色性と比較した。いずれの分子もTH陽性の大型円形構造物に高発現・凝集する像は得られず、ミトコンドリア機能異常がTHの強発現に関与するという積極的なデータは得られなかった。厚みのある凍結切片を用いてTH陽性の円形構造物を立体的に解析し、TH陽性の円形構造物が腫大した遠位軸索であることが判明した。 TH陽性の円形構造物の特異性をみるために、線条体へのもう一つの主要な入力線維であるグルタミン酸作動性線維のマーカーとしてグルタミン酸トランスポーター(VGlut1)の染色性と比較したが、VGlut1陽性となる同様の大型円形構造物は明らかでなく、TH陽性の円形構造物の特異性が示された。 11週令マウス♂(ホモ、ヘテロ、野生型 各n=1)にMPTP30mg/kgの腹腔内注射を5日間施行し解析した。MPTPを投与群では線条体におけるTH染色性の低下が認められた。ノックアウトマウス脊髄におけるPAS陽性顆粒(異常ミトコンドリア像)と軸索腫大は、MPTP投与前と比較し(以前のデータ)目立つ傾向にあった。 siRNAをSH-SY5Y細胞にtransfectしてPLA2G6遺伝子ノックダウン(KD)細胞を樹立し、解析した。cell titer blue assay、Lactate Dehydrogenase assay の結果から有意なcell viabilityの低下を認めた。ノックアウトマウスと同様にミトコンドリア内膜マーカーの発現低下、αシヌクレインの細胞内増加が認められた。あらかじめ、αシヌクレインの発現を低下させておくことにより細胞傷害性が悪化することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分泌されたドパミンを前シナプス内に回収して再利用に備えるドパミントランスポーターDATの発現は15週令のノックアウトマウスでは野生型と同様であったが、1年令より経時的に低下した。発症早期から線条体におけるDATの発現が低下する点は、パーキンソン病と同様であり非常に興味深い。DAT, VMAT2, αシヌクレイン、ミトコンドリアマーカー2種類に対する免疫組織学的染色では、いずれもTH強陽性の円状構造物へ合致する凝集は認められなかった。また、脊髄・脳幹などに多く認められたリン酸化αシヌクレイン陽性構造物は錐体外路系には明らかでなかった。凍結切片において、側坐核、帯状回、中隔野などにTH陽性の腫大した遠位軸索を認めた。TH強陽性の円状構造物は、VMAT2やDAT、ミトコンドリアマーカーとの関連は明らかなく、きわめて特徴的な構造物であることが判明した。また、遠位軸索の腫大そのものであると考えられ、錐体外路系における神経軸索ジストロフィーの病理学的指標となる可能性が示された。 MPTP投与に対する病変の比較については、マウスへの感染の問題によりノックアウトマウスの飼育が中断されるなどの事情のため遅れがある。n=1ではあるが、THの発現が低下するなど予想通りの結果が得られたので、検討するには十分な実験条件は得られている。 MPTPの投与実験の進行が遅れている一方で、培養細胞の実験系が確立され、ノックアウトマウスで認められたミトコンドリアの機能異常とαシヌクレインの蓄積が確認された。また、Cell titer blue(CTB○R)assayとLactate Dehydrogenase(LDH)assayにより、PLA2G6ノックダウン細胞ではcell viabilityのが有意に低下していた。ノックアウトマウスではαシヌクレインの蓄積が明らかであった15週令では無症状、約1年令から軽い運動症状が緩徐に進行することと大きく異なることが判明した。
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今後の研究の推進方策 |
THはドパミンを産生する第1段階の律速酵素であり、ドパミン産生にあたってはカテコラミンを小胞へ取り込むVMAT2との関連性は深いと考えられる。PLA2G6ノックアウトマウス線条体におけるTH強陽性の円形構造物、TH陽性の軸索腫大の生じる機序・膜変性との関係を明らかとするために、VMAT2については別の抗体を用いて免疫組織学的解析を再度試みる予定である。線条体におけるドパミンの外分泌が傷害されているのかどうかを検討するためにドパミン受容体の発現について比較する。高濃度のTHは酸化ストレスを生じることが考えられるので、酸化脂質の指標である4-hydroxy-2-nonenal (HNE)に対する染色性と比較する。 in vitro の実験系が確立されたので、THを中心としたドパミン産生に関連する分子の発現やその細胞内分布、ミトコンドリア機能異常との関係について検討する。またミトコンドリアの障害による細胞傷害性がαシヌクレインの欠損によって悪化することが判明したので、逆にαシヌクレインを増加させることによりミトコンドリアの傷害や細胞傷害が改善するかどうかを調べる。 MPTP投与実験についてはPLA2G6遺伝子ノックアウトマウスの飼育を引き続き行い、錐体外路におけるドパミン作動性ニューロンの変性、脊髄におけるミトコンドリア機能異常と軸索ジストロフィーへのMPTPの影響について、合わせて解析を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該年度で必要な物品をすべて購入したため。 次年度に必要な物品を購入する。
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