昨年度、PLA2G6ノックアウトマウスの線条体において経過とともに増加するチロシンヒドロキシラーゼ(TH)陽性の大型円形構造物はミトコンドリアのマーカーと一致せず、ミトコンドリア機能異常と線条体におけるTH陽性腫大した遠位軸索であることを報告した。 PLA2G6ノックアウトマウスにおいて黒質神経細胞数を定量評価したところ、明らかな神経細胞数の減少は認められなかった。neuroaxonal dystrophyの定義となる選択的な軸索変性とミトコンドリアの傷害の有無を明らかとするために、生体内で産生される過酸化脂質分解物である4-ヒドロキシ-2-ノネナール(4-HNE)に対する免疫組織学的染色を行い、野生型マウスと比較した。結果はノックアウトマウスの黒質から線条体へ投射する軸索においてHNEが高発現していた。このことから脊髄神経細胞で見られた光顕的に明らかとなるミトコンドリア異常は観察されないものの、ミトコンドリア機能不全が軸索障害の原因となっている可能性が示唆された。マウスの繁殖が困難でMPTP投与実験が施行できなかったので、代わりにPLA2G6関連神経変性症(PLAN)の錐体外路系における軸索変性についてマウスと同様の病態がみられるか解析した。Periodic Acid Shiff(PAS)染色では、PAS陽性の大型スフェロイドを被殻に多数、淡蒼球や皮質にも少数観察された。空胞化、膜様化して内部に顆粒を多数伴うスフェロイドが多かった。THに対する免疫反応性は高度に低下していたが、TH強陽性のスフェロイド様構造物を被殻に多数認めた。一方、グルタミン酸トランスポーター(VGlut1)に対する染色性は中等度低下していた。組織の粗しょう化している被殻では陰性で、島回では比較的保たれた。脳梁など白質にVGlut1陽性のスフェロイドを多数認めた。以上の結果は、ノックアウトマウスで見られた線条体の病理像はPLANとほぼ同様であった。
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