研究課題/領域番号 |
24591311
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
中川 祐子 群馬大学, 生体調節研究所, 助教 (90422500)
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キーワード | インスリン |
研究概要 |
インスリンは糖代謝を調節するもっとも重要なホルモンで、その作用不全は糖尿病を招来する。我が国における糖尿病患者数は増加の一途をたどり、社会的にも大きな問題となっている。我が国の糖尿病患者の大半はインスリン分泌不全を特徴とする2型糖尿病であることから、インスリン分泌調節の全容を解明することは有効な治療法を開発するためにも重要な課題である。インスリン分泌を調節する最も重要な因子はグルコースで、その作用機構に関してはこれまで多くの研究がなされてきた。現在、一般に認められている定説では、グルコースはGlut2を介して細胞内に取り込まれ、解糖系により代謝される。このとき産生されたATPあるいはATP/ADPの濃度比が増加することでATP感受性K+チャネル(KATPチャネル)が抑制され、脱分極が起きる。これにより電位依存性Ca2+チャネルが活性化され細胞内Ca2+が上昇する。これがインスリン顆粒の開口放出を引き起こす。この他にもKATPチャネルを介さない経路が存在するが、いまだ不明な点も少なくない。 申請者は膵β細胞のセカンドメッセンジャーの動態を可視化する測定系を確立し、その鋭敏な測定系を用いてグルコース応答シグナル伝達機構を解析してきた。その結果、以下のような特筆すべき結果を得た。プロテインキナーゼC(PKC)の基質MARCKSを用いて、グルコース添加後のPKCのリン酸化活性を経時的に観察すると、グルコース添加後わずか数秒以内にPKCが活性化され始めた。この結果を裏付けるように、グルコース添加後やはり数秒以内にジアシルグリセロール(DAG)の増加が見られた。さらにこのとき、cAMP濃度も素早くかつ持続的に増加した。興味深いことにこれらの素早いグルコース応答は、代謝阻害剤で抑制されず、代謝されないグルコースアナログで再現できることから、一連の素早い応答は「グルコース代謝非依存的な応答」であることが考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
膵β細胞の細胞株であるMIN6細胞を用いて、細胞内のATP濃度変化を感知するインジケーターを導入し、リアルタイムモニターする。T1R3 siRNAを導入して甘味受容体をノックダウンし、グルコース応答性のATP産生量の変化を検討した。その結果、T1R3をノックダウンすることによりグルコース誘導性のATP産生が抑制されることが分かった。 グルコース応答の際、甘味受容体から発生したCa2+シグナルがミトコンドリア内のCa2+上昇にどのような変化をおよぼすか検討を行う。具体的には、MIN6細胞に細胞質のCa2+濃度をモニターするFluo-4とミトコンドリア内のCa2+濃度をモニターするRhod-2を同時に導入し、甘味受容体ノックダウンにより細胞質・ミトコンドリア内のCa2+濃度変化に対する効果を検討した。その結果、両者に大きな違いは確認できなかった。 膵β細胞は他の細胞に比べ、NADHシャトル機構が発達している。そのためこの経路に甘味受容体が関与している可能性も考えられる。これまでの検討より、グルマリンによってグルコース応答性のインスリン分泌能が低下することが明らかとなった。この条件下において、グリセロールリン酸(GP)シャトルに直接入いり代謝されるジヒドロキシアセトン(DHA)を添加することによりインスリン分泌能が回復するか、または解糖系を経て代謝されるグリセルアルデヒドで回復するかを検討した。実際には、DHA で回復した場合、すなわちGPシャトルとの関連性が示された場合、さらにリンゴ酸-アスパラギン酸シャトルの阻害剤であるアミノオキシ酢酸を用いて、グルコース応答性のインスリン分泌が完全に抑えられるかどうか確かめた。その結果、グルコース誘導性のATP産生が有意に抑えられることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
甘味受容体はT1R2とT1R3のヘテロ2量体からなる。そこでT1R2+T1R3ダブルノックアウトマウスを作製し、糖代謝および脂質代謝の異常を検索し、代謝調節における甘味受容体の生理的意義を明らかにする。現在までのところ、T1R3ノックアウトマウスを取得したので、このマウスを用いてグルコース応答性ATP産生およびインスリン分泌に変化がないか検討を行う。
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