インスリンは糖代謝を調節するもっとも重要なホルモンで、その作用不全は糖尿病を招来する。我が国における糖尿病患者数は増加の一途をたどり、社会的にも大きな問題となっている。我が国の糖尿病患者の大半はインスリン分泌不全を特徴とする2型糖尿病であることから、インスリン分泌調節の全容を解明することは有効な治療法を開発するためにも重要な課題である。インスリン分泌を調節する最も重要な因子はグルコースで、その作用機構に関してはこれまで多くの研究がなされてきた。現在、一般に認められている定説では、グルコースはGlut2を介して細胞内に取り込まれ、解糖系により代謝される。このとき産生されたATPあるいはATP/ADPの濃度比が増加することでATP感受性K+チャネル(KATPチャネル)が抑制され、脱分極が起きる。これにより電位依存性Ca2+チャネルが活性化され細胞内Ca2+が上昇する。これがインスリン顆粒の開口放出を引き起こす。この他にもKATPチャネルを介さない経路が存在するが、いまだ不明な点も少なくない。 本年度は MIN6細胞を用いた検討より、非代謝性のグルコース応答に関与するシグナル伝達を同定した。主なシグナル因子はCa2+、cAMP、DAG およびPKCである。WTおよびT1R3koの単離β細胞を用いた検討でもCa2+、cAMPにおいて同様の結果が得られた。今後は、またこれらのシグナル発生にグルコース感知受容体が関与するか否かを検討する。尚、このT1R3koは先行研究により糖負荷によるインスリン分泌の抑制、およびインスリン顆粒の開口放出速度の低下が報告されていたため、そのメカニズムついても検討を行ったが、この検討については現在進行中である。
|