研究課題
体内時計を基盤とした生体リズムは糖尿病の発症防止に重要な役割を果たしているが、その機序は不明である。そこで本研究では、体内時計の支配下で睡眠覚醒リズムやエネルギー代謝を制御する視床下部オレキシン神経系に着目し、グルコース恒常性の維持機構における役割を検討した。まず、オレキシンの作用不全が糖代謝に与える影響を検討した結果、オレキシン欠損マウスでは3ヶ月齢の段階で血糖値の日内リズムが消失し、6ヶ月齢に加齢すると明期(休息期)で高血糖を呈した。これらの異常は摂食、自発運動およびホルモン(インスリンなど)の日内リズムとは独立であり、肝臓の時計遺伝子(Per2など)、インスリンシグナル伝達因子IRS2、および糖新生律速酵素の日内変動の異常との関連を認めた。また(骨格筋よりも早期に)肝臓のインスリン抵抗性の増大を認めた。その機序を解析した結果、オレキシン、オレキシン1型受容体およびオレキシン2受容体欠損マウスのいずれにおいても肝臓のインスリン抵抗性に関わる小胞体ストレスのマーカー(CHOPなど)が増加し、電子顕微鏡解析においても小胞体の異常な膨潤を認めた。一方、2型糖尿病db/dbマウスに対してオレキシンを生理的分泌様式に即して暗期(活動期)に投与すると血糖リズムが形成され、特に明期(休息期)においてインスリン抵抗性促進因子(JNK活性化など)や糖新生律速酵素の低下により高血糖が改善された。この血糖改善効果は投与時刻依存的であった。副交感神経肝臓枝切除および自律神経作動薬・遮断薬を用いた検討により、オレキシンは自律神経バランスの日周性調節を介して肝糖新生を制御し、血糖リズムの形成や休息期の過剰な糖新生の防止に寄与することが示された。以上より、視床下部オレキシン系は、体内時計や睡眠覚醒リズムと糖代謝リズムを同調させることで、グルコース恒常性を維持する役割を果たしていることを明らかにした。
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Diabetes
巻: 64 ページ: 459-470
10.2337/db14-0695
https://www.u-toyama.ac.jp/outline/publicity/pdf/2014/32.pdf