研究課題
基盤研究(C)
骨量は破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成とのバランスによって調節される。このバランスはホルモンやサイトカインなど細胞外の要因に影響されることはよく知られているが、細胞外プロトン(pH)も重要な役割を担っており、酸性条件下では骨吸収が亢進するといわれている。OGR1 (ovarian cancer G-protein-coupled receptor 1)、TDAG8 (T-cell death-associated gene 8)、GPR4、G2A)は細胞外のpHを感知するGタンパク質共役型受容体であり、骨芽細胞および破骨細胞でも発現している。ノックアウトマウス長骨をpQCT 骨密度測定装置により骨密度を測定した。雌性OGR1 ノックアウトマウスは骨密度が高かったのに対し、雄性では有意な差はみられなかった。そのため、女性ホルモンの関与が示唆される。これまでの報告と合わせると、まだ機序は十分には明らかではないもののOGR1は骨芽細胞、破骨細胞機能を介して骨吸収を亢進していることが示唆された。個体での解析結果を踏まえて、破骨細胞分化と機能におけるpH受容体の役割を野生型、およびOGR1ノックアウトマウスより骨髄を採取し、破骨細胞への分化誘導を行った。細胞外のpHを酸性にした時の破骨細胞分化についても実験を行った。M-CSF、RANKLにより誘導される破骨細胞分化を、破骨細胞のマーカーとしてTRAP(酒石酸耐性酸性ホスファターゼ)陽性であることと多核形成を基準として評価した。破骨細胞分化にはOGR1の発現が伴った。
3: やや遅れている
平成24年度には出産のため産休を取得し、仕事を中断した。このため、マウスの飼育数が予定よりも減り、平成24年度に予定していた個体レベルでの仕事の中で、骨形態測定ができなかった。一方、少ない頭数でも可能な細胞レベルでの仕事として、平成25年度以降に予定していた破骨細胞および骨芽細胞の培養を行い、ある程度は研究を進めることができた。
pH受容体ノックアウトマウスを用いて、個体レベルおよび細胞レベルでの研究を通してpH受容体が骨代謝でどのような役割を果たすのかを明らかにすることを試みる。個体レベルでは、(1)平成24年度では十分に行えなかった、pH 受容体ノックアウトマウス長骨の解析を行う。ノックアウトマウス脛骨を用いて骨形態計測を行う。サンプリング前に一定の期間を置いてカルセインを投与し、沈着したカルセインの距離を測定することにより骨の成長速度を調べる。骨芽細胞、破骨細胞の数や接する骨の面積など、骨の組織学的検討と測定から破骨細胞と骨芽細胞のそれぞれの機能を計測する。(2)pH 受容体ノックアウトマウスでコラーゲン関節炎(CIA)モデルを作成して、その増悪度をスコアリングにより評価する。(3)正常もしくは病態を誘導したマウスより血液を採取し、骨形成マーカー(骨型アルカリホスファターゼ)、骨吸収マーカー(I型コラーゲン架橋N-テロペプチド)、サイトカイン(TNF-α)をELISA 法により測定する。さらにpHと女性ホルモンとの関連を細胞レベルで解析する。(1)マウス新生仔頭蓋冠より調製した骨芽細胞を用いpH 低下による骨形成に関わる活性(アルカリホスファターゼ、骨石灰化など)と破骨細胞を分化する活性(RANKL 発現)を評価する。これらの作用にエストロゲンがどのような作用を発揮するかを調べる。(2) M-CSF、RANKL により誘導される破骨細胞分化過程について、破骨細胞の形成と破骨細胞の骨吸収能(骨吸収窩の面積)に対するpHやエストロゲンの作用を調べる。
平成24年度に産休を取得したため、24年度に予定していた骨密度の測定および、骨形態計測ができなかった。このため、骨密度測定と骨形態計測のための予算を25年度に繰り越すことになった。骨密度の測定および骨形態計測には特殊な機器が必要なため専門の業者による測定が必要である。それ以外の実験については必要な機器や施設は揃っており設備備品の購入の予定はない。細胞培養の実験に関しては、平成24年度より前倒しで開始した。平成25年度も細胞培養実験を行うので、分化誘導にサイトカイン類が、骨代謝機能の評価として専用の培養関連器具の消耗品が必要である。マウス実験ではその数値評価のため、サイトカイン等の測定を行う。このため、複数種のELISAアッセイキットを購入予定である。
すべて 2012 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 備考 (1件)
Endocrinology
巻: 159 ページ: 4171-4180
10.1210/en.2012-1164.
http://www.imcr.gunma-u.ac.jp/lab/sigtra/