低分子非コードRNAの1つであるマイクロRNA(miRNA)は、seed配列とよばれる数塩基の配列が標的とするメッセンジャーRNAの3’-UT Rに干渉することで、その遺伝子の翻訳を阻害し、最終産物であるタンパク質の産生を抑制すると考えられている。しかし、生体内での機能および関連する生命現象に関する知見は少ないため、miRNAノックアウトマウスを作製・解析することを目的として研究を進めてきた。 マウス下垂体において非常に強く発現するmiR-200bとmiR-429を2重に欠損したマウスは雌性の不妊となった。miRNA自身はタンパク質をコードしていないことから、標的となりうる遺伝子の翻訳制御が排卵に重要であると考えられるため、miR-200bとmiR-429の標的遺伝子を解析したところ抑制型の転写因子であるZeb1遺伝子を明らかにした。miR-200bとmiR-429を欠損した下垂体においてZEB1タンパク質が過剰に発現していたことから、Zeb1を下垂体前葉のゴナドトロフに強発現させるトランスジェニックマウスを作製したところ、同様に排卵不全による不妊となった。下垂体における表現型を詳細に解析すると、LHサージ不全であることがわかり、ZEB1のタンパク質量依存的にLhbの発現が制御されていることを明らかにした。 これらの研究成果は、生殖内分泌を制御するmiRNAに関する初めての知見である。さらに、初期発生や免疫細胞に関わる遺伝子として知られていたZeb1が生殖内分泌を制御しているという新たな機能の発見にもつながり、これらの遺伝子を標的とした創薬へと発展することが期待される。
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