研究実績の概要 |
高度に分化した組織である副甲状腺の再生を究極の目的として、副甲状腺ホルモン (PTH) 遺伝子の転写に関与する遺伝子の同定、および副甲状腺分化障害の原因となる遺伝子変異の同定、この2つの視点から、ラット由来副甲状腺細胞株PTrを用いて研究を行った。また副甲状腺分化異常を呈する先天性副甲状腺機能低下症およびHDR症候群患者の遺伝子を解析し、以下の結果を得た。 1. PTr細胞で、PTH遺伝子の組織特異的発現には転写因子GCMBが、また恒常的な発現には転写因子Sp1が関与することを見出した。2. 一方、転写因子Sp6 (Epiprofin) の発現はPTH遺伝子転写に抑制的に作用することを明らかにした。この抑制は、Sp6とSp1の競合により生じるものと考えられた。3. Sp6遺伝子の転写調節は転写因子NFATにより制御されることを見出した。4. ヒトHDR症候群の一家系でGATA3遺伝子の新たな変異(R299Q)を同定した。また家族性副甲状腺機能低下症を呈した家系を対象とした共同研究で複数のGCMB遺伝子変異を同定した。 以上の結果を総合すると、副甲状腺の発生およびPTH発現にGCMBおよびGATA3遺伝子が関与し、副甲状腺非特異的に発現するハウスキーピング型転写因子Sp1が短期的転写調節を司っていることが示唆された。また高Ca血症時のCaSR受容体刺激による細胞内Ca上昇は転写因子NFATの活性化を介してSp6遺伝子を誘導、これがSp1と競合してPTH遺伝子の転写を抑制し、高Ca血症時のPTH合成・分泌抑制に関与している可能性が推察された。 上記の知見より、副甲状腺の分化必要な遺伝子(GCMB, GATA3)、およびPTHの発現を短期的にON/OFFする分子機序が明確になったことから、幹細胞を副甲状腺細胞に分化誘導する手法の開発に繋がることが期待される。
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