研究課題/領域番号 |
24591374
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
岡本 士毅 生理学研究所, 発達生理学研究系, 助教 (40342919)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 嗜好性 / ストレス / コルチコトロピン放出ホルモン |
研究概要 |
これまでに、マウス視床下部室傍核(PVH)のAMPキナーゼ(AMPK)を活性化させると、PVHでの脂肪酸酸化が亢進し、炭水化物食嗜好性が高まることを見出した。また、絶食後の再摂食時における炭水化物嗜好性の亢進作用にも、PVHニューロンにおけるAMPK-脂肪酸酸化機構が関与することを見出した。さらに、PVHのコルチコトロピン放出ホルモン(CRH)含有ニューロンがこれらの調節機構に必須であることを証明した。しかし肥満動物ではAMPK活性化機構に異常を来し、高脂肪食に対する嗜好性が亢進することも明らかにした。CRHは古くからストレス応答性ホルモンとして知られる。そこで本研究では、社会的心理的ストレス負荷時における食餌嗜好性の変化と、その制御機構の発動機序、CRHニューロンにおけるAMPKと脂肪酸酸化の関与を調べることにより、ストレスが摂食障害を引き起こす脳内機構の一端を明らかにする事を目的とする。 本年度はマウスを用いて食餌嗜好性を変化させる条件を見出すことが出来た。攻撃性の高い異系統マウス(同性)と、仕切りのあるケージで10日間同居飼育して慢性的な心理的ストレスを与え、一定回復期間の後に食餌嗜好性を測定した。すると、ストレス負荷前対照マウスは高脂肪食を摂食するが、ストレス負荷後は炭水化物食嗜好性が高まり、AMPK活性化時と同様に炭水化物嗜好性を誘導する新たな生理的条件を見出した。現在、引き続き詳細な条件確定の為にストレス実験を繰り返すとともに、ストレス負荷時におけるPVHのAMPK活性、ex vivoでの脂肪酸酸化を測定中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
食餌嗜好性を変化させる生理的ストレス条件の確率に手間取った。しかし本年度ストレス条件をほぼ確定でき、更にAMPKを中心とした脳内嗜好性制御メカニズムの解明を進めているので、ストレス時における上記メカニズムの関与を明らかにする事は可能であると確信している。
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今後の研究の推進方策 |
AMPKに対するshRNAを、LoxP配列を持つレンチウィルスベクターを用いてCRH-Cre TgマウスのPVHに発現させ、上記ストレスによる嗜好性変化への効果を調べる。また血中グルココルチコイド濃度を測定する。これまでの実験から、AMPK shRNAを発現させたマウスはストレスによる嗜好性が変化しないと予想している。
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次年度の研究費の使用計画 |
AMPKに対するshRNAを、LoxP配列を持つレンチウィルスベクターを用いてCRH-Cre TgマウスのPVHに発現させ、上記ストレスによる嗜好性変化への効果を調べる。また血中グルココルチコイド濃度を測定する。これまでの実験から、AMPK shRNAを発現させたマウスはストレスによる嗜好性が変化しないと予想している。さらに高脂肪食によって肥満させたマウスについても慢性心理ストレスを負荷し、嗜好性を調べる。研究代表者は、既述したように、高脂肪食によって肥満したマウスではPVHのAMPK-脂肪酸酸化活性、CRHの発現が低下し、脂肪食に対する嗜好性が亢進することを見出している。それゆえ、やせ型マウスに上記ストレスを負荷すると炭水化物食を摂取するが、肥満マウスではむしろ高脂肪食を摂取すると考えている。 ストレス時における嗜好性変化に対するAMPKの関与が示されたならば、CRHニューロン活性化のメカニズムの解析を行う。これまでの実験から、AMPKが脂肪酸酸化を介してCRHニューロンの細胞内Ca2+濃度を上昇させることは間違いがない。しかし、メカニズムは全く不明である。細胞内の脂肪酸やacyl-CoAが、Kチャネルなどのイオンチャネル活性を調節するとのこれまでの報告から、脂肪酸酸化が促進することによって細胞質内の脂肪酸やacyl-CoA濃度が変化し、その結果、Ca2+チャネルが活性化して細胞内Ca2+濃度が変化すると予想している。そこでこの仮説を検証するために、単離したCRHニューロンに様々なイオンチャネル阻害剤、acyl-CoAを作用させ、その効果を調べる。acyl-CoAを作用させる実験においてはetomoxirなど脂肪酸酸化阻害剤を併用する実験も行う。
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