研究課題
基盤研究(C)
生理活性ペプチドは、細胞間の情報伝達を担う主要な分子であり、生体機能の調節において広範かつ重要な役割を果たしている。本研究では、新たな生体調節機構の解明を目的として、研究代表者が発見した生理活性ペプチドであるニューロメジンS(NMS)の機能解析を行うとともに、新たな生理活性ペプチドの探索を試みる。NMSは、中枢神経系、脾臓及び精巣で発現している。脳では視床下部での発現量が高く、特に視交叉上核で強い遺伝子発現が認められる。脳室内投与実験にて、概日時計の位相変位、摂食抑制、尿量減少、乳汁分泌増加が観察されるなど、NMSは脳内で興味深い機能を発揮することが示されているが、脳内でのペプチドの分布、すなわち、NMS産生ニューロンが構成する脳内神経ネットワークが不明なため、NMSの生理的役割は未だ完全には確立できていない。そこで、ラット脳におけるNMSの分布をペプチドレベルで解析したところ、遺伝子発現量の多い視床下部だけでなく、発現量の少ない中脳、橋・延髄でも豊富にNMSが存在し、視床下部のNMS産生ニューロンから脳幹への神経線維投射が示唆された。また、免疫組織化学染色による解析では、脳幹網様体での免疫陽性反応が観察された。一方、脳幹での受容体の発現をリアルタイムPCRにて検討したところ、2型受容体の発現が確認されたが、その強度は視床下部のそれにはおよばなかった。一方、既知のペプチド前駆体タンパク質のアミノ酸配列解析により、新たなペプチド候補となるアミノ酸配列を見出している。このペプチドX(仮称)に対するラジオイムノアッセイを構築し、脳内での組織含量を測定したところ、湿重量1gあたり約30フェムトモルであった。ラット200匹の脳組織からペプチドXの精製を試みたが、ペプチドXが少ないことが原因と考えられる複雑な酸化反応などにより、単一な精製は困難であった。
2: おおむね順調に進展している
ラジオイムノアッセイにてNMSの脳内分布を解析した結果、脳幹にも豊富なペプチドが存在することが明らかになり、視床下部に存在するNMS産生ニューロンから脳幹への神経線維投射が示唆された。また、免疫組織染色でも脳幹部におけるNMSペプチドの存在が示唆された。一方、脳幹ではNMSの2型受容体の遺伝子発現が認められた。これらは、脳幹でのNMSの未だ知られていない生理的役割を示唆している。一方、ラット脳より新規生理活性ペプチドと推測されるペプチドXの精製を試みたが、残念ながら技術的に困難なことが理由で単一精製にまでいたらなかった。しかしながら、逆相HPLCとラジオイムノアッセイを組み合わせた解析により、ペプチドXがラット脳に確実に存在することを示すデータを得た。以上により、本研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
これまでの研究にて、脳幹におけるNMSの新しい機能が示唆された。そこで、NMSをラットの脳室内や脳幹へ投与して、未だ知られていない機能の解明を試みる。一方、新規ペプチド候補であるペプチドXについては、その存在を確実に証明するために、培養細胞での発現系にてその産生システムの再構築を行い、産生されたペプチドXの精製を試みる。これにより、ペプチドXが既知前駆体タンパク質から産生されることを証明する。また、このペプチドの機能解析を目的として、ペプチドXのラットへの脳室内投与実験を試みる。
次年度に使用する予定の研究費は、主に謝金として計画していたが使用しなかったものであり、これを翌年度は物品費として使用する予定である。本研究計画では、国立循環器病研究センターの保有する共同研究機器ならびに、国立循環器病研究センター研究所生化学部の機器を中心に使用するため、研究を遂行するための物品費(消耗品)を中心として研究費の使用を計画している。また、最新の知識・情報を収集するための調査・研究旅費、ならびに成果発表に関する必要経費の使用も計画している。
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Front. Endocrin.
巻: 3 ページ: 177
10.3389/fendo.2012.00177
巻: 3 ページ: 152
10.3389/fendo.2012.00152