研究課題/領域番号 |
24591376
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研究機関 | 独立行政法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
森 健二 独立行政法人国立循環器病研究センター, 研究所, 室長 (00416223)
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キーワード | 生理活性ペプチド / 神経ペプチド / ニューロメジン |
研究概要 |
生理活性ペプチドは、細胞間の情報伝達を担う主要な分子であり、生体機能の調節において広範かつ重要な役割を果たしている。本研究では、新たな生体調節機構の解明を目的として、研究代表者が発見した生理活性ペプチドであるニューロメジンS(NMS)の機能解析を行うとともに、新たな生理活性ペプチドの探索を試みる。 NMSを脳室内投与すると摂食が抑制されるなど、このペプチドが脳内で興味深い機能を発揮することが示されているが、NMS産生ニューロンが構成する脳内神経ネットワークが不明なため、NMSの生理的役割は未だ完全には確立できていない。そこで、ラット脳におけるNMSの分布をペプチドレベルで解析したところ、遺伝子発現量の多い視床下部だけでなく、発現量の少ない中脳、橋・延髄でも豊富にペプチドが存在し、視床下部のNMS産生ニューロンから脳幹への神経線維投射が示唆された。また、脳幹での受容体遺伝子の発現を解析したところ、2型受容体の発現が確認され、その発現の強さは視床下部の約6割であった。 一方、既知のペプチド前駆体タンパク質のアミノ酸配列解析により、新たなペプチド候補となるアミノ酸配列を見出している。このペプチドX(仮称)に対するラジオイムノアッセイを構築し、脳内での組織含量を測定したところ、湿重量1gあたり約30フェムトモルであった。ラット200匹の脳組織からペプチドXの精製を試みたが困難であったため、本年度は前駆体タンパク質を下垂体由来細胞AtT20で発現させ、ペプチドXの産生を確認した。ラジオイムノアッセイにてAtT20細胞中にペプチドXの産生が確認できたためその精製を試みたところ、37アミノ酸残基からなるペプチドXが精製できた。ラジオイムノアッセイを用いた動物組織中での免疫学的検出と合わせて考察すると、ペプチドXは生体内で産生されていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、NMSの脳内分布をペプチドレベルで解析することにより、視床下部に存在するNMS産生ニューロンから脳幹への神経線維投射を示唆した。免疫組織染色でも脳幹部におけるNMSペプチドの存在が示唆された。また、脳幹ではNMSの2型受容体の遺伝子発現が認められた。これらは、脳幹でのNMSの未だ知られていない生理的役割を示唆している。 一方、ラット脳より新規生理活性ペプチドと推測されるペプチドXの精製を試みたが、精製できなかった。しかしながら、逆相HPLCとラジオイムノアッセイを組み合わせた解析により、ペプチドXがラット脳に確実に存在することを示すデータを得た。 本年度は、ペプチドXの産生をより確実に実証するために、その前駆体タンパク質を下垂体由来細胞AtT20で発現させ、ペプチドXが産生されるか否かを検証した。ラジオイムノアッセイでの解析では、発現させたAtT20細胞内にペプチドXの免疫活性が確認でき、逆相HPLCでの免疫活性の溶出時間は、化学合成したペプチドXのそれと同一であった。そこで、この細胞で産生されたペプチドXの精製を試みた結果、予想通りの37アミノ酸残基からなるペプチドが精製できた。前駆体タンパク質の配列解析では、プロセシング位置が異なる34アミノ酸残基のペプチドXも予想されていたが、こちらは精製されなかった。改めて逆相HPLCにて免疫活性を慎重に分析すると、37アミノ酸残基に相当する溶出時間のみで免疫活性が溶出されていた。この結果は、ラット脳抽出物を用いた分析でも同一であった。以上の結果は、ペプチドXが生体内で37アミノ酸残基のペプチドとして産生されていることを示している。 以上により、本研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究にて、脳幹におけるNMSの新しい機能が示唆された。そこで、NMSをラットの脳室内や脳幹へ投与することにより、未だ知られていない機能解明を試みる。 一方、新規ペプチド候補であるペプチドXについては、本年度までの研究にて、実際に産生されていることを証明することができた。今後は、このペプチドの機能解析を目的として、ペプチドXのラットへの脳室内投与実験を試みる。ペプチドXとともに同じ前駆体タンパク質から産生される既知生理活性ペプチドは、脳室内投与にて行動や内分泌制御に影響を与えることが明らかなため、まずは同様の解析を進める予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度に使用する予定の研究費は、主に謝金として計画していたものである。しかし、研究の進捗状況からこれを使用する必要がなかった。 翌年度は物品費として使用する予定である。本研究計画では、国立循環器病研究センターの保有する共同研究機器ならびに、国立循環器病研究センター研究所生化学部の機器を中心に使用するため、研究を遂行するための物品費(消耗品)を中心として研究費の使用を計画している。
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