研究課題
基盤研究(C)
本研究は、鉄過剰による造血障害の機序と鉄キレート療法による造血回復の機序を、特に鉄過剰状態において血液中に出現する非トランスフェリン結合鉄(NTBI)の関与を含めて分子生物学的に明らかにすることを目的としている。C57BL/6 wild type (male,12-13weeks old) マウスに対してiron dextranを腹腔内投与し、鉄過剰モデルマウスを作成した。投与したiron dextranは5、50 mgであるが、50 mg投与でも急性の鉄毒性は認められず、どちらの群も肝臓や脾臓などの組織には鉄の沈着が確認できた。赤血球の長い寿命を考慮して鉄過剰状態にしてから3カ月経過させた時点での血液では予想に反して有意差をもったヘモグロビンの低下は認められなかった。しかし骨髄の検討では、鉄過剰に伴い有意に骨髄中有核細胞数の減少を認め、さらに鏡検では分化細胞の低下を認めた。これらより、今回検討の条件下で造血障害は起こっていると考えられた。さらに明確な造血障害を顕在化させるには3カ月以上の鉄過剰状態が必要である可能性、さらに高容量の鉄を付加する必要性を考え、現在それらの条件での検討も進行中である。本研究を進めるにあたっては、NTBIに加え他の多くの生化学項目およびサイトカインを測定し、鉄過剰状態における変化を詳細に検討していく必要があるが、研究を進める時点で問題となってきたのは、そうした検討には比較的多くの血清を必要とすることで、従来我々が構築していたHPLC法によるNTBI測定法ではほとんどの血清をそこに費やしてしまい、今後の研究に支障を与えかねないことである。研究者は、本研究と並行して、実地臨床で使用できる少量の血清でNTBI測定が可能な自動分析装置対応NTBI測定試薬の開発を進めているが(投稿中)、その測定系を本研究の鉄過剰マウスの血清での測定に応用する作業も進めた。
2: おおむね順調に進展している
本研究の初年度は、まずマウスに造血障害を引き起こす鉄過剰の条件設定をしっかり行うことが最も重要であったが、iron dextranの腹腔内投与で骨髄中の造血が抑制される条件の確認ができており、また、鉄過剰の程度が異なることにより造血への影響が異なることも確認できており、その点は達成度として順調であると考えている。血清中NTBIの測定に関しては、研究者がこれまで構築してきたnon-metal HPLC法での検討では、少量の血清での測定では値のバラつきが大きく出てしまう問題が生じ、他の造血因子との関連性の検討を考えると少量で行わざるを得ず、研究への支障の可能性が生じた。しかし、この点に関しては、研究者が本研究とは別に既に進めていた実地臨床で使用可能なNTBI測定系構築を、本研究での動物モデル血清に応用することで既に対応しており、現在のところ少量の血清での安定したNTBI測定が可能になってきているため、研究が遅れずに済んでいると考えている。設定した条件にて作成した鉄過剰・造血障害モデルマウスに関しての、血球カウント、血清生化学検査、血清鉄、不飽和鉄結合能の評価も行えており、臓器別の解析としても、造血を担う骨髄の解析に加え、骨髄以外で造血に間接的に関与してくる肝臓や赤血球破壊を担う脾臓、さらに鉄吸収を担う十二指腸の組織切片での鉄染色での評価も行っており、さらに各種鉄代謝関連遺伝子群(TfR1およびTfR2、ヘプシジン、hemojuvelin、ferroportin、フェリチンなど)の変動もreal-time PCRで解析を開始しており、当初の予定をほぼ順調に進行させていると考えている。
平成24年度で設定した条件にて作成した鉄過剰・造血障害モデルマウスに関して、NTBIの検討に加え、ヘプシジン、EPO、GDF15、IL-6などの炎症性サイトカインの評価を行う。ヘプシジンに関しては、liquid chromatography-tandem mass spectrometry法を使用して定量的な解析を行う。既に採取を開始している肝臓、骨髄、十二指腸、脾臓において、各臓器の組織内鉄蓄積状態は組織切片の原子吸光法での鉄定量や、既に開始している各種鉄代謝関連遺伝子群の変動の解析を継続する。また、抗マウス抗体がある鉄代謝関連分子はwestern blottingによる発現変動解析も行う。次に、作成した鉄過剰・造血抑制モデルマウスに対して、鉄キレート剤として臨床応用されているdefsferrioxamineやdeferasiroxを投与することで、それらの変動がcancelされるかどうか、すなわち、鉄キレート剤投与による過剰鉄毒性解除の検討を行う。これらの動物実験と平行して、各種赤芽球系細胞を用いた鉄過剰によるin vitroでの造血障害の検討も開始する。赤芽球系細胞のモデルとして、①鉄過剰・造血障害モデルとして作成したマウスの骨髄から赤芽球を分離培養する、②K562細胞に対しNaBを用いてerythroid differentiationを誘導した赤芽球分化モデルを作成する、③ヒト末梢血単核球からの赤芽球分化モデルをinterleukin-3、stem cell factor、erythropoietin、insulin-like growth factor-Iを用いたthree-phase liquid cultured systemにより作成し、NTBIやTf結合鉄取り込み、鉄代謝関連分子の変動を行っていく。
該当なし
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