研究課題/領域番号 |
24591377
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研究機関 | 旭川医科大学 |
研究代表者 |
生田 克哉 旭川医科大学, 医学部, 講師 (00396376)
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研究分担者 |
佐々木 勝則 旭川医科大学, 医学部, その他 (60336394)
伊藤 巧 旭川医科大学, 大学病院, その他 (80548686)
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キーワード | 非トランスフェリン結合鉄 / 鉄過剰症 / 造血障害 |
研究概要 |
本研究は、鉄過剰による造血障害の機序と鉄キレート療法による造血回復の機序を、特に鉄過剰状態において血液中に出現する非トランスフェリン結合鉄(NTBI)の関与を含めて分子生物学的に明らかにすることを目的としている。 C57BL/6 wild type (male,12-13weeks old) マウスにiron dextranを腹腔内投与し、鉄過剰モデルマウスを作成した。5 mgおよび50 mg投与群では、急性の鉄毒性は認められず、どちらの群も肝臓や脾臓には鉄の沈着が確認でき、骨髄中有核細胞数の減少を認め、さらに鏡検では分化細胞の低下を認め造血障害は確認でき、その傾向は5 mg 投与群より50 mg投与群で強かった。血清中では血清鉄上昇、不飽和鉄結合能低下、ELISAで測定した血清マウス・フェリチンの上昇も認め、鉄過剰・造血障害モデルが成立していることは確認できた。ただ、白血球・血小板の減少傾向を一部認めたものの、有意なヘモグロビンの低下までは2-3カ月の経過では認めず、さらなる長期間鉄曝露状況下での解析の必要性も示唆された。 本研究の最重要課題であるNTBIの関与の検討に関しては、従来我々が使用してきたHPLC法による測定法では大量の血清が必要で大きな問題であったが、平成24-25年度にかけ、少量の血清でNTBI測定が可能な自動分析装置対応NTBI測定試薬の開発を同時に進めた。当初マウス血清では血清の濁度により測定が困難であったが、平成25年度にその点も改良し、現在マウス血清や細胞培養上清での測定も可能となっている(論文投稿中)。その測定系により、50 mg投与群では著明にNTBI高値となることも確認でき、NTBIの造血障害への関与の研究モデルとして適切であることが確認された。 現在、鉄過剰モデルマウスの骨髄細胞やK562細胞における鉄代謝関連遺伝子を含む多くの遺伝子発現変動について次世代シークエンサーを用いたトランスクリプトーム解析を行っており、造血障害へ寄与する関連候補遺伝子の選定を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24-25年度の検討により、マウスに造血障害を引き起こす鉄過剰の条件の確立は行えた。さらに問題であったNTBIの測定に関して検体量が多く必要な点に関しても、研究者が本研究とは別に進めていた実地臨床で使用可能な生化学自動分析装置対応NTBI測定系を本研究向きに改良することで、本研究での鉄過剰マウスモデル血清にも応用可能となったため、鉄過剰かつNTBI高値というモデル構築方法が妥当であることを確認できた。さらにこの新規測定方は細胞培養上清でのNTBI測定も可能となっており、in vitroでの詳細な条件設定も同時に可能としており、研究全体は遅れずに解析予定をこなしてきていると考えている。 研究計画を立てた当初は鉄過剰時の各種鉄代謝関連遺伝子群(TfR1およびTfR2、ヘプシジン、hemojuvelin、ferroportin、フェリチンなど)の変動をreal-time PCRで個別に解析予定であったが、現在当研究室において次世代高速シーケンサーが導入され、それによりさらに多くの鉄代謝関連遺伝子を含め多くの遺伝子発現変動の解析が可能になり、スクリーニングにおける時間を大幅に短縮させており、予定の解析は全体として概ね順調に進行していると考えている。さらに、細胞内シグナル伝達に関与する遺伝子などでの変動も認めており、予定より広く解析を進められている。 なお、in vitroでの検討に関しては、K562細胞に対し酪酸ナトリウム (sodium butyrate)を用いてerythroid differentiationを誘導した赤芽球分化モデルを作成し、鉄を投与した際の細胞増殖をMTT assayを用いて検討したが、72時間までの検討では有意な結果には至っておらず、赤芽球モデルとしては鉄過剰・造血障害モデルマウスの骨髄から赤芽球を分離培養する、もしくは、ヒト末梢血単核球からの赤芽球分化モデルの方が望ましいという点までの結果が得られており、検討すべきと考えていた項目はこちらもおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成24・25年度で設定した条件で作成した鉄過剰・造血障害モデルマウスに関して、ヘプシジン、EPO、GDF15、IL-6などの鉄代謝関連液性因子の評価を行う。さらに、既に採取を開始している肝臓、骨髄、十二指腸、脾臓において、各臓器の組織内鉄蓄積状態は組織切片の原子吸光法での鉄定量や、各種鉄代謝関連遺伝子群のトランスクリプトーム解析による網羅的遺伝子発現解析を継続する。また、抗マウス抗体がある鉄代謝関連分子はwestern blottingによる発現変動解析も行う。ただ、これまで2-3カ月の過剰鉄への曝露では明確なHbの低下までは認められておらず、さらに鉄の投与方法(短期間での比較的大量投与、頻回に分けて長期間かけての投与など)を変化させたり、鉄過剰状態としてから長期間経過した後の解析(赤血球寿命が長いため)など、条件を変化させた状態での検討を行う必要もあり、同時に進める。 次に、作成した鉄過剰・造血抑制モデルマウスに対して、鉄キレート剤として臨床応用されているdesferrioxamineやdeferasiroxを投与することで、それらの変動がcancelされるかどうか、すなわち、鉄キレート剤投与による過剰鉄毒性解除の検討を行う。これらの動物実験と平行して、各種赤芽球系細胞を用いた鉄過剰によるin vitroでの造血障害の検討も開始する。この際の赤芽球系細胞のモデルとして、K562細胞に対しNaBを用いてerythroid differentiationを誘導した赤芽球分化モデルを作成し鉄を投与することをまず行っているが有意な結果が得られておらず、今後はさらに、①鉄過剰・造血障害モデルとして作成したマウスの骨髄から赤芽球を分離培養する、②ヒト末梢血単核球からの赤芽球分化モデルをinterleukin-3、stem cell factor、erythropoietin、insulin-like growth factor-Iを用いて作成し、NTBIやTf結合鉄取り込み、鉄代謝関連分子の変動を行っていく必要があると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
申請した所要額1,900,000円に対して、必要物品を過不足なく購入した結果実際に使用したのが1,898,636円であり、残額1,364円であり、ほぼ予定通りに使用したものと考えている。 本年度の残額1,364円は、平成26年度の研究継続のための物品費の一部として使用したい。
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