研究課題
本研究は、鉄過剰による造血障害および鉄キレート療法による造血回復の機序を、鉄過剰状態において血液中に出現する非トランスフェリン結合鉄(NTBI)の関与を含め明らかにすることを目的として行った。マウスにiron dextran 50 mg腹腔内投与で鉄過剰モデルを作成した。肝臓や脾臓に鉄沈着が確認でき、骨髄中有核細胞数減少を認め、鏡検で分化細胞の低下を認め造血障害も確認できた。血清鉄上昇、不飽和鉄結合能低下、血清マウス・フェリチンの上昇も認めた。従来のHPLC法ではNTBI測定に大量の血清が必要で問題であったが、自動分析装置対応NTBI測定系開発を同時に進め、マウス血清や細胞培養上清での測定も可能な新規測定系として確立し論文投稿も完了させた。このモデルマウスでは著明なNTBI高値も確認でき、NTBIの造血障害への関与の研究モデルとして適切と考えられた。このモデルに対しdesferrioxamine (DFO)により鉄キレートを行った群も作成し、骨髄細胞での次世代シークエンサーを用いた網羅的遺伝子解析を行い、鉄過剰で発現が変化し、その変化がキレート療法で回復する遺伝子を抽出した。結果、細胞内糖代謝関連酵素の遺伝子発現が複数確認された。そこで、TCA回路に関与し、なおかつ鉄動態変化との関連が深いcytosolic aconitase: ACO1/IRP1も含めさらに解析を進め、鉄過剰モデルマウスにおいてACO1やisocitrate dehydrogenase(IDH)の活性化が起こり、これにより2-hydroxyglutarate (2-HG)が増加している所見を得た。IDHはその遺伝子変異が骨髄異形成症候群や白血病の発症に関与するとの報告、また、2-HGはDNA脱メチル化に働くtet methylcytosine dioxygenase 2を競合的に阻害することが報告されており、本研究結果は鉄過剰によりIDH変異を有さない個体であっても2-HG増加を介したDNAメチル化が引き起こされ、結果として造血障害や白血化をきたす機序の一端を説明可能と考えている(論文投稿中)。
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