・マウスモデルにおいては骨髄腫の発生は胚中心B細胞におけるAIDが引き起こす点突然変異で起きている可能性が示されている。ヒト骨髄腫細胞株および患者検体でAIDの発現を検討したが、骨髄腫細胞株8種類および患者検体40サンプルにおいてAIDの発現は見られなかった。しかし、末梢血単核球を単離しIL4/GM-CSF存在下に培養して作成した樹状細胞と骨髄腫細胞株を共培養すると、AIDの発現が誘導できた。このことから、周囲の環境によっては骨髄腫細胞内でAIDが発現する可能性が示唆される。 ・一方、AIDのターゲットであるBCL6・c-Mycプロモーター領域およびの点変異も解析したが、両プロモーターとも変異は認めなかった。骨髄腫患者の腫瘍細胞においては種々のレベルでBCL6の発現が見られ、正常形質細胞とは異なる。一方、骨髄腫細胞株ではBCL6の発現は見らず、患者サンプルとは異なっていた。腫瘍細胞でBCL6が発現している意義を明らかにするため骨髄腫細胞株にBCL6を強制発現させ、DNA損傷応答について解析した。BCL6強制発現株では増殖抑制がみられ、放射線照射後のDNA損傷の指標であるγH2AXfoci形成が抑制され、DNA損傷応答が障害されている可能性が示唆された。γH2AXfociは正常な損傷修復においては最初に起こる必須の応答であり、この抑制がゲノム不安定性に関与している可能性が示唆される。 ・T(4;14)陽性および陰性細胞株においてもγH2AXおよび53BP1のfoci形成を調べたところ、既報とは異なり差を認めなかった。このことからAIDおよびMMSETの転座によるDNA損傷応答の関連は明らかではなかったが、骨髄腫においてBCL6の発現がゲノム不安定性に関与している可能性が示唆され、現在も研究を進めている。
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