研究課題/領域番号 |
24591382
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
HEISSIG Beate 東京大学, 医科学研究所, 准教授 (30372931)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | CXCL12 / Kit-ligand / 血管新生 / 細胞外ドメイン分泌 / 遺伝子発現 / HIF-1 / FIH-1 / PAI-1阻害剤 |
研究概要 |
近年、膜型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MT1-MMP)はがんの悪性形質を制御するHUB分子として機能することが示唆されており、がん―悪性腫瘍細胞動態、そして病態の制御因子としての意義が確立しつつある。本研究では、造血器-骨髄由来の悪性腫瘍である多発性骨髄腫病態におけるMT1-MMPの機能と臨床上の意義の明確化を主目的としている。今年度の研究で、代表者らは、骨髄中のMT1-MMPが、各種細胞増殖因子のプロセシング、及びこれらの遺伝子発現を制御することによって骨髄細胞動態の起点として機能していることを明らかにした。MT1-MMP遺伝子欠損マウスでは、多発性骨髄種細胞の動態に関与するとされるサイトカインやケモカインの血中濃度が正常マウスと比較して有意に低下しており、その原因としてMT1-MMPによって上方制御される各種MMPの相互活性化によるこれら骨髄種細胞動態制御分子群の骨髄ストローマ細胞からの細胞外ドメイン分泌が阻害されていること、さらに、MT1-MMPの細胞内ドメインに結合している低酸素誘導因子(HIF-1)阻害物質であるFIH-1が細胞質内に遊離し、HIF-1活性が阻害され、骨髄種細胞動態制御分子群の遺伝子発現自体が抑制されていることを解明した。またこれまで、代表者らは、各種MMPの活性化が線溶系因子プラスミンによって制御されていることを報告してきたが、今年度の研究で、プラスミノーゲンアクチベータ抑制因子(PAI-1)活性を薬剤によって阻害することで、生体内で血管新生を促進することに成功した。多発性骨髄種において、骨髄中に異常血管新生が誘導されることが広く知られており、これらの研究成果は、MT1-MMPを起点としたプロテアーゼ活性が骨髄種細胞の浸潤・増殖、そして血管新生の両面から、多発性骨髄腫の病態形成に関与し得ることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
膜型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MT1-MMP)の正常造血における機能、及びその重要性を明らかにし、論文発表に至ったばかりでなく、MT1-MMPが多発性骨髄種細胞動態に関与することが知られる各種生体因子の分泌、遺伝子発現の制御にも関与していることを明らかにしたことから。
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今後の研究の推進方策 |
1. マウス多発性骨髄種細胞株における膜型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MT1-MMP)発現あるいは産生を精査する。さらにこれらを移植した骨髄種モデルを作製し、骨髄中の微小環境動態を解析する。 2. ヒト多発性骨髄種患者の病勢、骨髄組織、細胞あるいは骨髄種細胞を分離し、MT1-MMPの発現、局在等について精査する。また患者血液中のプロテアーゼ活性、サイトカイン濃度等を測定し、マウス実験で立案された仮説について検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
1.ROSAあるいはGreen fluorescest protein(GFP)トランスジェニックマウスをドナーとして各種マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)あるいは線維素溶解系(線溶系)因子遺伝子欠損マウスあるいはこれらの野生型に骨髄移植したマウスの皮下または静脈内に、各種マウス骨髄腫あるいは形質細胞腫細胞を移植し、マウス骨髄腫モデルを作製する。2.1の処置後、2-3日間隔でマウス血漿を採取し、マウス血漿中の異常蛋白、血管新生因子あるいは造血因子、ケモカイン、各種MMP、線溶系因子濃度あるいは活性を免疫酵素抗体法、ELISA法、ザイモグラフィーないしはウェスタンブロットで測定、検出する。これらのキット・試薬代に30万円程度使用する。3.1の処置後、腫瘍発育の状況と末梢血球数を記録し、1週毎に、骨髄等のマウス各種臓器及び腫瘍を摘出し、これらの病理組織所見を詳細に観察する。さらにGFP、蛋白分解酵素群、血管内皮特異抗原、各種血球系マーカーあるいは接着分子の発現等についての免疫学的特殊染色、in situ hybridizationを施行する。さらに腫瘍組織を採取し、単核球を分離し、骨髄、脾臓と合わせてフローサイトメーター解析も行い、各種臓器組織中の血管新生状況、腫瘍周囲の集簇細胞の性状、骨髄・脾臓細胞の構成変化、骨髄内外のMMPあるいは線溶系因子活性等について精査する。これらの抗体・試薬代に30万円程度が使用される。4.ヒト骨髄腫患者の治療前後の血漿及び骨髄を採取し、血漿中の異常蛋白、血管新生因子あるいは造血因子、ケモカイン、各種MMP、線溶系因子濃度あるいは活性を測定、さらに骨髄組織中の蛋白分解酵素群、血管内皮特異抗原、各種生体分子発現等についての免疫学的特殊染色、in situ hybridizationを施行する。これらの抗体・試薬代に30万円程度が使用される。
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