研究実績の概要 |
本研究課題において、骨髄増殖性腫瘍(MPN)の分子病態について、骨髄微小環境における酸素分圧の変化およびその応答機序に注目して解析を行い、以下の成果を得た。 1, MPN由来の細胞株を、低酸素環境下で培養することにより全ゲノム中のDNAのメチル化シトシン(5-mc)および5-ヒドロキシメチル化シトシン(5-hmc)レベルが低下することを確認した。 2, ついて、メチル化アレイを行うことにより低酸素環境下でそのプロモーター領域のメチル化レベルの変化する遺伝子について網羅的な解析を進めた。 3, その結果、低酸素環境下ではWnt5のメチル化が解除される事を見出した。さらに、RT-PCRおよびウェスタンブロット解析により、低酸素環境ではWnt5のmRNAおよびタンパクの発現が誘導されることを見出した。Wnt5は、造血幹細胞制御においても極めて重要な役割を果たしている分子である。また、白血病細胞では異常なメチル化を受ける遺伝子としても知られている。以上を合わせると、我々の得た結果は、低酸素環境が造血幹細胞制御を行う新たなメカニズムの解明に繋がる極めて重要な知見であると考えられる。 4, 低酸素環境下でプロモーター領域のメチル化レベルが変化する他の遺伝子の候補として、RHO-B, サイクリンDなどもピックアップされたが、バイサルファイト解析ではメチル化変化には再現性が得られず、またタンパクやmRNAの発現レベルにも有意な差は認めなかったことから、これらの遺伝子については、これ以上の解析を中止としている。
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