研究課題
基盤研究(C)
ほとんどの白血病に過剰発現するWT1遺伝子の果たす癌遺伝子機能とその分子学的メカニズムを白血病細胞のゲノム安定性・DNA損傷修復および代謝制御において明確にすることを目的とする。【WT1遺伝子のゲノム安定性・DNA損傷修復への関与について】DNA二本鎖切断の主たる修復機構のreporter assayの系でWT1の4種のisoformのうち1種のisoformがDNA二本鎖切断の損傷修復を促進することを明確にし、その機序としてそのWT1 isoformによる2種のDNA損傷修復関連因子の発現の増加を明らかにした。さらにこれらのDNA損傷修復関連因子が非小細胞肺癌において多くの症例において過剰発現していることを明らかにした。【WT1遺伝子の腫瘍細胞の代謝制御について】WT1による調節を受ける可能性が示唆された代謝経路およびWT1が直接結合しうる酵素Y1およびY2の活性をin vitroで測定するために、WT1を内在性に発現しない細胞の細胞質分画を用いてこれらの活性を解析する系を確立した。この系に、精製した1種のWT1 isoformタンパクを添加したところ、代謝経路全体、酵素Y1,Y2のそれぞれの活性が増加し、WT1タンパクが細胞の代謝調節に関与していることを明確に示した。さらにこれまでに同定したWT1の部分配列ペプチドがこれらの酵素Y1,Y2の活性を抑制することを明らかにした。【WT1分子標的療法の開発】標的とするWT1とbinding partnerの間の相互作用を阻害する低分子化合物のスクリーニングに向けて、H24年度はこれまでにWT1タンパクのbinding partnerとして同定されたタンパクの産生・精製を進めた。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題は、ほとんどの白血病に過剰発現するWT1遺伝子の果たす癌遺伝子機能とその分子学的メカニズムを白血病細胞のゲノム安定性・DNA損傷修復および代謝制御において明確にすることを目的としている。まず、WT1のゲノム安定性維持への関与については、WT1が最も重大なDNA傷害であるDNA二本鎖切断の修復の促進を介して白血病細胞のゲノム安定性維持に貢献していることを明らかにした。白血病の治療において、多くの治療薬は白血病細胞にDNA傷害から細胞死を誘導することをその機序としている。したがってWT1がDNA二本鎖切断の修復を促進することは、WT1を発現する白血病細胞の化学療法抵抗性の機序となり、これまでに明らかとなっているWT1の発現と白血病の予後の逆相関を説明するものである。さらに本研究では、WT1のDNA損傷修復の機序としてWT1によるDNA損傷修復因子の発現上昇を明らかにし、これらが非小細胞肺癌において過剰発現していることを初めて明らかにした。これは、WT1によるゲノム安定性維持の促進が、白血病ばかりではなく他の悪性腫瘍においても重要な役割を果たしている可能性を示すものでその意義は大きい。次にWT1遺伝子の腫瘍細胞の代謝制御については、WT1タンパクが細胞の代謝調節に直接関与していることを明らかにした。さらにこれまでに同定したWT1の部分配列ペプチドがこれらの代謝経路の酵素Y1およびY2の活性を抑制することを明らかにした。これらは、これまでに明らかになっていなかったWT1遺伝子の新たな癌遺伝子機能である。さらに、WT1と代謝経路の酵素Y1およびY2の間の相互作用がこのWT1による代謝調節に不可欠であると考えられ、WT1、Y1,Y2の間の相互作用を標的とする分子標的治療法の開発の基盤となる知見である。それらの意味で本研究で得られた成果は重要な意義を持つものである。
【1】WT1遺伝子のゲノム安定性・DNA損傷修復への関与についてこれまでに明らかにしたDNA二本鎖切断のDNA損傷修復においてWT1が機能を果たす機序について明確にするために、WT1によるDNA損傷修復関連因子の発現調節機構についてさらに解析を進める。さらに生体内では内因性に生じる活性酸素などにより、DNA二本鎖切断以外にも様々なDNA損傷が生じるのでそれらに対するDNA損傷修復機構においてもWT1が役割を果たす可能性がないか、検討する。2)われわれはこれまでにWT1タンパクがゲノムDNA保護・修復因子Xと結合しうることをpull down assayにより明らかにしている。次年度はこれらの分子間の相互作用を阻害するWT1ペプチドを同定し、そのWT1ペプチドを用いてWT1タンパク-因子X複合体がゲノム安定性・DNA損傷修復において果たす役割を解析する。【2】WT1遺伝子の腫瘍細胞の代謝制御についてはWT1と代謝経路の酵素Y1,Y2との結合に関与する部位を明確にすることを次年度の課題とする。これを明確にすることは、WT1とbinding partner酵素Y1,Y2の間の相互作用を標的とする分子標的療法の開発につながる。【3】 【1】【2】において同定された細胞の生存および増殖に重要な役割を果たすWT1タンパクとそのbinding partnerの結合部位を標的として、WT1分子標的療法を開発する。そのために、そのWT1タンパクとbinding partnerの結合を阻害する低分子化合物のスクリーニング・同定を行う。ここで同定された低分子化合物の細胞増殖抑制、細胞死誘導能、および抗癌剤に対する感受性の増強効果について検討し、効果があるものについてはマウスxenograft系にて腫瘍増殖抑制効果を検討する。
該当なし
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Anticancer Res
巻: 32 ページ: 1081-5
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巻: 26 ページ: 1410-3