研究課題
基盤研究(C)
遺伝子変異によるJAK2の恒常的活性化(JAK2V617F)が骨髄増殖性腫瘍(MPN)の発症に重要であることがあきらかとなっている。遺伝子変異によるJAK2経路の異常活性化は、MPN共通の分子メカニズムであり、JAK2を標的とした阻害薬の開発と臨床応用が進んでいるが、現在開発中のJAK2阻害剤を用いた臨床研究からはJAK2阻害剤の投与により自覚症状、脾腫、白血球増多の改善は認められるものの、腫瘍クローンの抑制や骨髄線維化の改善は認められない。我々が複数のJAK2阻害薬をJAK2V617Fトランスジェニックマウスに投与し、その有効性について検討したところ、脾腫の縮小、体重減少の緩和、生存の延長などのMPN病態の改善効果を認める一方で貧血や骨髄の線維化、腫瘍クローンの割合など改善しない病態が認められた。MPNの治療成績を改善するには、幹細胞レベルでの腫瘍クローンの維持と増幅、骨髄線維化などの分子機構を解明し、明らかとなった責任分子をJAK2と共に新たな治療標的に加えることが必要である。近年、MPNの発症、急性骨髄性白血病(AML)への急性転化に必要なメカニズムを解明する手がかりとなるJAK2V617F以外の遺伝子変異に関する報告が相次いでなされており、TET2(Ten eleven translocation 2)、ASXL1(Additional sex comb-like 1)、IDH(Isocitrate dehydrogenase)1/2等が注目されている。我々はTET2低発現マウスを用いて、MPNのクロナリティー獲得にTET2変異が重要であることを見出した。また、JAK2V617FトランスジェニックマウスにみられるMPNからのAML発症(急性転化)には、CBFβ-MYH11の共存だけでは不十分であることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
MPNに認められる遺伝子変異は、その機能により2種類に大別される。1つはJAK2V61Fに代表されるサイトカインのシグナル伝達を活性化するoncogenic driver変異である。もう1つは、TET2変異を代表とするDNAメチル化やヒストン修飾等に関わるエピゲノム制御分子の異常であり、前述のdriver 変異と共存することが知られている。我々は、JAK2V617FトランスジェニックマウスやTET2遺伝子変異マウス(TET2低発現マウス)を用いて、MPNの発症、AMLへの急性転化に必要なメカニズムの解明を行っている。可変型遺伝子トラップ法によりTET2のイントロン2に、トラップベクターを挿入することによってTET2のmRNA発現レベルを野生型マウスの約20%程度に低下させたTET2低発現マウスであるAyu17-449(TET2(trap))を用いた解析を行ったところ、TET2(trap/trap)マウスは、メンデルの比率で出生したものの、ほとんどが出生後3日以内に死亡し、本マウス実験モデル系においてはTET2が生存に必須であることが示された。前述の如くTET2(trap/trap)マウスは出生後早期に死亡する為、胎児肝臓中における造血細胞のin vitroでの解析を行ったところ、TET2(trap/trap)マウスにおいて、造血幹細胞、前駆細胞数の増加が認められた。致死的放射線照射を行ったレシピエントマウスに移植する実験により、TET2(trap/trap)マウス胎児肝から得た造血細胞において、自己複製能の亢進、野生型マウス由来の造血幹細胞と比較した際の増殖優位性が認められた。現在、JAK2V617FトランスジェニックマウスとTET2低発現マウスを用いて、これら2種類の異常が共存することが、MPNの病態、急性転化の発症にどのような影響を与えるのか検討を行っている。
我々は、JAK2V617FならびにTET2低発現が、マウスにMPNの表現型および造血幹細胞の自己複製能亢進をもたらすことを見出したが、今後、JAK2V617FトランスジェニックマウスとTET2低発現マウスを用いて、これら2種類の異常が、単独でまたは共存してMPNの病態にどのような影響を与えるのか、その意義についての検討を行っていく。具体的には、JAK2V617FトランスジェニックマウスとTET2低発現マウスを交配して得られた仔から、4種類の造血幹細胞(JAK2Wt TET2Wt)、(JAK2WT TET2low)、(JAK2VF TET2Wt)、(JAK2VF TET2low)、を採取し、放射線照射野生型マウスに移植を行う。レシピエントマウスにおいて、これらの遺伝子異常を有する造血細胞が、MPNの病態、急性転化の発症に及ぼす影響を解析する。また、ヒトMPNで認められるJAK2変異、TET2変異の疾患発症および進展にはたす役割を解明する目的で、前述の4種類の造血幹細胞を、野生型造血幹細胞と共にレシピエントマウスに移植する競合移植実験を行い、野生型造血が存在する条件下でのMPN発症能、AMLへの急性転化の頻度を、比較検討していく。
一般的な細胞培養、in vitro実験用の細胞培養試薬に30万円、抗体及び生化学試薬に50万円の支出を予定している。マウスの移植実験を継続する為にトランスジェニックマウスの継代、移植マウスの飼育が必要であり、40万円を予定している。また、研究成果の論文発表、学会発表費用として、20万円を予定している。
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