研究課題/領域番号 |
24591406
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
飯田 真介 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (50295614)
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研究分担者 |
李 政樹 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (00567539)
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キーワード | 医療 / 癌 / 薬剤反応性 / リンパ腫 / 骨髄腫 |
研究概要 |
本研究は、難治性リンパ系腫瘍におけるHDAC阻害剤(SAHA)耐性の細胞株(皮膚T細胞性リンパ腫株、及び多発性骨髄腫株)を既に樹立し、その親株との比較により耐性機序を解明することが目的である。これまでのところ、耐性株と親株を比較することで、以下のことを明らかにした。①SAHA耐性の細胞株は、他の汎HDAC阻害剤(panobinostat)に対しても、同様に耐性を示すこと。② HDAC耐性細胞株は、HDAC全体の活性が低下しており、またHDAC阻害剤によるHDAC活性阻害に対して低感受性であること。③ HDAC耐性細胞株の各HDACの遺伝子の主なexon領域を調べた結果、変異は見当たらないこと。④HDAC耐性株においては、HDAC3の発現レベルが共通して低下していること(遺伝子レベルで確認。タンパク発現は確認中)。⑤shRNA法を用いて親株におけるHDAC3発現を抑制したところ、HDAC阻害剤の感受性が低下したこと。他のHDAC(HDAC2, HDAC8)を阻害した場合には、HDAC阻害剤の感受性には変化がなかったこと。つまり、HDAC阻害剤の作用機序には、特定のHDACが関与している可能性があること。⑥ 親株とHDAC耐性株を比較した網羅的遺伝子発現解析。耐性株は親株とくらべて、HDAC3の発現レベルの低下がみられているが、さらに、いくつかの興味深い遺伝子の大きな発現変化が見られている。これらには、カスパーゼ依存性のアポトーシス誘導因子および、骨髄系細胞の分化に係る転写因子などが含まれている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成25年度は、前年度と併せて、以下の項目を中心に研究を行ってきた。 ① HDAC阻害剤耐性細胞株と感受性株間のHDAC発現及び活性変化の検討 ② 耐性株と感受性株間の遺伝子発現変化 ①に関しては、前年度の研究において、HDAC阻害剤耐性株とその親株の比較において、耐性株のHDAC活性が低下していることが判明し、また、HDAC群の中でもHDAC3などの特定の酵素群が、HDAC阻害剤の感受性に関与している可能性を示した。平成25年度は、HDAC阻害剤を投与された皮膚T細胞性リンパ腫の症例における投与前後でのHDAC発現の変化等を検討する予定であったが検体が採取できず、患者検体での十分な検討がなされていない。また、未検討のHDAC酵素群、具体的にはclassIII&IV; sirtulin 1-7,HDAC11の発現活性や発現に関して、HDAC阻害剤耐性株と親株間で比較解析はまだ十分に成されていない。 ②に関しては、耐性株と感受性株間で、網羅的遺伝子解析による手法で遺伝子発現解析を行った。研究成果の概略で示したように、いくつかの興味深い遺伝子が同定され、次なる研究への発展が見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果を継続発展させ、引き続きHDAC阻害剤が及ぼす多岐にわたる作用の中での重要な作用機序の解明および、難治性リンパ系腫瘍におけるHDAC発現異常の生物学的意義の解明も併せて解明することを目標とする。具体的には、まだ十分に検討されていないHDAC群の解析、具体的にはHDAC classIII&IV; sirtulin 1-7, HDAC11の発現活性や発現に関して、HDAC阻害剤耐性株と親株間で比較解析を行い、HDAC3以外の、HDAC阻害剤の感受性にかかわる因子を探索する。 また、網羅的な遺伝子解析で同定された複数個の遺伝子に関してはHDAC阻害剤耐性とのかかわりを解明するために、HDAC阻害剤の作用機序であるヒストンアセチル化・蛋白アセチル化・アポトーシス促進因子の発現亢進等への影響を中心にそれらへの係わりを調べていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究実施計画の練り直しが必要となったため、必要物品の再考を行い平成26年度にアレイ解析やウエスタンブロットに使用する抗体の購入が可能となるように繰り越し額を増やすこととした。 個別のHDAC活性を測定する市販の特異的 HDAC / Sirtuin 活性測定キット等を使用することで、ほぼすべてのHDAC活性の測定を行い、感受性株と耐性株間での比較を行う。変化の見られた特定のHDACに関しては、レンチウイルスを用いたshRNAによるノックダウン系、もしくは逆に強制発現系を駆使することで、HDAC阻害剤耐性の再現の有無や、耐性解除の現象等を確認する。 また、網羅的な遺伝子発現比較解析で得られたデータを基に抽出された特定の遺伝子群に関して、RT-PCR法で発現変化を再確認し、その遺伝子が関わるシグナル経路の解析をHDACとの関連を中心に進めていく。転写活性の機能解析として、chIP on chipアレイ解析、またタンパク質のアセチル化の変化を調べるために、アセチル化タンパクを特異的に検出する抗体を用いたウエスタンブロット法などを予定している。
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