研究実績の概要 |
本研究は、難治性リンパ系腫瘍におけるHDAC阻害剤(SAHA)耐性の細胞株(皮膚T細胞性リンパ腫及び多発性骨髄腫)を樹立し、親株との比較により耐性機序を解明することが目的である。これまでのところ、耐性株と親株を比較することで、以下のことを明らかにした。①SAHA耐性細胞株は、他の汎HDAC阻害剤(panobinostat)に対しても、同様に耐性を示す。② HDAC耐性細胞株は、HDAC全体の活性が低下しており、またHDAC阻害剤によるHDAC活性阻害に対して低感受性である。③ HDAC耐性細胞株の各HDACの遺伝子の主なexon領域を調べた結果、変異は見いだせない。④HDAC耐性株においては、HDAC3の発現レベルが共通して低下している(遺伝子レベルで確認。タンパク発現は確認中)。⑤shRNA法を用いて親株におけるHDAC3発現を抑制したところ、HDAC阻害剤の感受性が低下した。他のHDAC(HDAC2, HDAC8)を阻害した場合には、HDAC阻害剤の感受性には変化がなかった。すなわち、HDAC阻害剤の作用機序には、特定のHDACが関与している可能性がある。⑥ 親株とHDAC耐性株を比較した網羅的遺伝子発現解析にて、耐性株は親株とくらべて、HDAC3の発現レベルの低下がみられたが、他にもいくつかの遺伝子発現に大きな変化が認められていた。これらには、カスパーゼ依存性のアポトーシス誘導因子および、骨髄系細胞の分化に係る転写因子などが含まれている。興味深い遺伝子としてHOXB6、FBOX2, BIDなどが挙げられる。⑦耐性株におけるHADC3発現レベルの低下は、プロモータ領域のメチル化には依存しない機序であった。⑧HDAC阻害剤の感受性にかかわる因子として既に報告されているHR23Bの発現レベルは、耐性株と親株間で有意な差は認めなかった。
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