研究課題
1.昨年度同定したRN28S1と融合する3種類のキメラ転写産物について解析を続けた。RN28S1は蛋白質に翻訳されず、そして3つの融合相手遺伝子における融合点は全てエクソン内であった。また、BCL11BとRN28S1の融合は正常の転写方向とは逆向きに起こっていた。したがって、このような形での融合を形成することにより、相手遺伝子の正常な機能が阻害されることが腫瘍化に関与している可能性が示唆できる。今回同定した3種類のRN28S1との融合遺伝子の機能は不明であるが、いずれも腫瘍発生への関与が推察できるいくつかの報告がある。また、RN28S1そのものも腫瘍発生に関与する報告があり、今回同定したキメラ転写産物が腫瘍発生に何らかの役割をしていることが示唆される。2.未知のキメラ転写産物の同定のために16検体の混合サンプルを用いて行ったRNAシーケンスでは、当初の解析では目的のキメラ転写産物と思われるものは同定できなかった。100bpのペアエンドでのシーケンスで2億リードのシーケンスを読み、理論的には検体当たり1~2000万リードを読んでいる条件であったため、通常は十分に目的の産物が同定できると考えられる条件だった。その後再度別の複数のプログラムを用いて同様の解析を行ったが、やはり結果は同様だった。一方、同時に研究分担者が行ったRNAシーケンスでは、染色体転座に基づく新規のJAK2関連キメラ転写産物を同定することに成功したが、その配列は2億リードのシーケンス中きわめて少数であった。この結果を合わせて考えると、RNAシーケンスを成功させるのには、使用する検体の質、腫瘍の種類、形成されているキメラ転写産物の種類など、さまざまな要因が影響していると考えられ、今回の結果は今後のために最適条件を検討するための重要な示唆を与えてくれるものと思われた。
2: おおむね順調に進展している
今回同定したRN28S1に関連するキメラ転写産物の構造は、注意深く調べれば調べるほど、通常の染色体転座によって形成されるキメラ転写産物とは異なっていた。このような予期せず同定された新しいタイプのキメラ転写産物を用いて、腫瘍発生のより詳しいメカニズムを明らかにするのが本研究の目的であり、それらに関する研究の進捗は概ね順調である。一方、RNAシーケンスによる未知のキメラ転写産物の同定には非常に苦労している。しかし、この新しい技術を今後効率よく利用していくためには、このような経験が重要であり、単にリード数を多く読むというだけではなく、この方法の問題点を解決するきっかけを作ることができたということを考えると、研究全体としてはこれも含めて順調に進行しているといえる。
別のRNAシーケンスによる解析を現在検討しているが、これまでの検討で通常推奨されている2000万リードのシーケンスでは必ずしも十分ではないことがわかった。それはキメラ転写産物の種類による発現量の違い、疾患や想定されるキメラ遺伝子の種類、RNAの質などにより、どのような条件でシーケンスを行うのが効率的かを十分検討する必要がある。できるだけたくさんのリードを読む条件で行うのが理想的ではあるが、シーケンスに掛かるランニングコストを考えるとそのようにするわけにもいかない。これまで得たデータをより詳細に検討していくことにより、より効率良く目的のキメラ転写産物を同定できる方法を検討していきたい。また、現在のRNAシーケンスの方法では、RN28S1のようなリボソームRNAは除去されてしまうため、このようなキメラ転写産物を効率よく同定する方法も検討していく。
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